スコット・ウォーカーは長年にわたり、誘拐事件をはじめとする危機的な場面での交渉役を担ってきた。ロンドン警視庁に勤めた後、危機対応コンサルタントとして働く彼によれば、「交渉は複雑で難解な技術ではなく、日常のコミュニケーション」なのだという。給料や家賃の交渉、家族の危機にも役立つという彼のテクニックとは──。 ヨーロッパのどこかで、ある男が銃を突きつけられ、乗っていたBMWから連れ出された。男は成功したビジネスマンで、その資産は2億ユーロとも言われている。焼け焦げた車の残骸を見れば、これがプロの犯行であることは明らかだった。 48時間後、ロンドンでは、スコット・ウォーカーが人質解放のためのチームに召集されていた。人質交渉人として10年以上のキャリアがあるウォーカーは、長丁場を覚悟していた。誘拐犯がこちらに連絡し、要求を突きつけてくるまで、何週間もかかるかもしれない──だが、当面の交渉相手は誘拐