→紀伊國屋書店で購入 没後32年目に出版されたナボコフの遺作で、「死は悦び」という副題がついている。ナボコフは未完の作品はすべて焼却するように遺言していたが、その遺言に逆らって出版したというので世界的なニュースになった。 ナボコフの未完の「長編」が出たのは文学的事件なので注文してみたが、届いたのは3cmくらいある分厚いハードカバーだった。こんな長い作品が眠っていたのかとわくわくしながらページを開いたところ、愕然とした。 "The Original of Laura"はインデックスカードという厚紙のカードに鉛筆書きされていたと伝えられているが、奇数ページの上半分にはカードの表側が写真版で、下半分には活字化されたテキストが印刷されている。偶数ページはカードの裏が同じ体裁でレイアウトされているが、裏面にまで文字が書かれているカードは数枚だけである。本の用紙自体もインデックスカードの厚さなので(カ
→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 『ロリータ』を新訳した若島正氏の『ロリータ』論である。 若島氏は『乱視読者の新冒険』の第Ⅳ部にナボコフについて書いた文章を集めており、最初の伝記作家、アンドリュー・フィールドの蹉跌という切口からナボコフの家父長性を論じた「失われた父ナボコフを求めて」、エドマンド・ウィルスンとの仲たがいの背景に探偵小説があったのではないかという仮説を述べた「ナボコフと探偵小説」、ジョイスとナボコフのすれ違い(二人は現実に二度会っている)からナボコフの限界にふれた「虹を架ける――『フィネガンズ・ウェイク』と『ロリータ』」、パソコンの検索機能を枕に『ロリータ』の言葉遊びを論じた「電子テキストと『ロリータ』」のような好文章がならんでいる。 それぞれおもしろいけれども、折々に書かれた雑文であり、本格的な論考とはいいにくい。 一方、『ロリータ、ロリータ、ロリータ』は題名の通
→紀伊國屋書店で購入 日本のナボコフ研究の第一人者、若島正氏による『ロリータ』の新訳である。 『ロリータ』の最初の邦訳は1959年に河出書房から上下二巻本で出た大久保康雄氏名義の訳だったが、この訳は丸谷才一氏によってナボコフの文学的なしかけを解さぬ悪訳と手厳しく批判された。 今回の若島訳をとりあげた丸谷氏の書評(『蝶々は誰からの手紙』所収)によると、大久保氏は丸谷氏に私信で、あの訳は自分がやったわけではなく、目下、新しく訳し直しているところだという意味のことを書いてきたという(大久保氏はおびただしい数の訳書を量産していたから、下訳を自分でチェックせずに出版するということもあるいはあったのかもしれない)。その言葉通り、大久保氏は1980年に新潮文庫から全面的に改訳した新版を出している。 新潮文庫版が全面的な改訳だったとは知らなかったので、今回、古書店で探して読んでみたが、明らかに誤訳とわかる
◇『シリコンバレーから将棋を観る--羽生善治と現代』 (中央公論新社・1365円) ◇熱く語られる将棋の「もっとすごい」未来 本書のまえがきには、「『指さない将棋ファン』宣言」といういささか挑発的なタイトルが付けられている。「指さない将棋ファン」とは何か。それはつまり、実際に駒を手にして将棋を指す機会はそれほどなくても、プロ棋士の将棋を観(み)るのが楽しみのひとつだという人たちのことである。 そういうファン層は、以前からも存在していた。彼らが将棋に接するのは、まず新聞の将棋欄と、日曜のNHK教育TVでの将棋番組を通してであった。わたしも幼いころ、ヘタの横好きである祖父が、夕食の後に酒を飲みながら、新聞に載っている棋譜を楽しそうに並べていたのを憶(おぼ)えている。大山とか升田という棋士の名前はそのときに知った。 ところが、この指さないファン層は、最近ではその性格が変わってきた。大きな原因は、
実を言うと、わたしは大学生になるまで小説というものをほとんど読んでいませんでした。それが、いきなり外国の小説を原書で読むことからスタートしたのです。忘れもしませんが、最初に読んだのはリチャード・ライト(今週のキーワード参照)の『アメリカの息子』(Wright, Richard Native Son)でした。 でも、この作品は長篇小説です。その後『乱視読者の英米短篇講義』で取り上げたような短篇を集中的に読むようになったのには、大きく二つの理由があります。 大学生は授業に出ないと圧倒的に暇なのですが、わたしは学生時代まったく授業に出ていませんでしたから、一日中自由な時間がある。当時やっていたことと言えば、将棋と映画、あとは読書ばかり。読書については熱病にかかったように読んでいて、読み終わると日記に感想をつけていました。日記をつけるとなると、どうしてもたくさんの書名を書き込みたくなる。そ
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