『この映画を視ているのは誰か?』(作品社、2019年)収録。初稿なので単行本とは若干異同があるかもしれません。 まぶただけ開いてまだ眠ったままの目が、一瞬、見えた。それからすぐに、目は暗闇を見て、わたしを見た。良介は筋肉の反射反応のように素早く強く目をぎゅっと閉じて、それからまた開けて、わたしの両手に包まれたその顔からわたしを見た。 柴崎友香「寝ても覚めても」 したがって、見つめ合う二つの瞳に対して、映画はいつも敗北しつづけるほかはない。 蓮實重彦『監督 小津安二郎』 I 濱口竜介監督の映画『寝ても覚めても』には原作がある。そんなことはもちろん知っている、とあなたは言うだろう。ならばすぐさまこう続けよう。この映画の原作は、実は二つあるのだ。より精確に言えば、ひとつはごく真っ当な意味でのいわゆる「原作」だが(しかしその原作と映画との関係は通常のそれとはかなり異なっている)、もうひとつの方は、