芥川龍之介は沢山の短篇小説を遺しています。文章の洒脱さはもとより、サクッと読めてなお読み手の心に響く話なんですね。そのひとつ『妙な話』の秘密を少し探ってみました。 芥川龍之介『妙な話』のツボは“謎の赤帽”の正体 まずは『妙な話』あらすじ 主人公の「私」は、旧友である村上から“妙な話”を打ち明けられた。彼の妹で海軍将校の妻である千枝子が、夫の欧州出征中に神経衰弱(ノイローゼ)になっていたと云う。中央停車場※1でのこと、赤帽※2に突然声を掛けられた千枝子。その“謎の赤帽”が、戦地へ赴いている彼女の夫のことを、いきなり尋ねるのです「旦那様はお変りもございませんか」と。 中央停車場の様子 大正三年頃 赤帽が夫の消息を訊ねているのに、千枝子は「最近手紙が来ないの」と答える。するとその赤帽は「旦那のようすを見てきましょう」というのです。さらにその後、再び彼女の前に現れた“謎の赤帽”は、夫が戦地で手を負