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ブックマーク / honz.jp (152)

  • 『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』 - HONZ

    21世紀を理解する上で読むべき経済書 書は、軍事・経済・生活に欠かせない戦略物資、半導体をめぐる国家や企業の攻防をいきいきと描いたノンフィクションだ。半導体業界の興亡を、個人や企業のミクロなエピソードで紡ぎ、マクロな経済史・産業史へと昇華させる。『石油の世紀』でピューリッツァー賞を受賞したダニエル・ヤーギンをして、「21世紀を理解する上で読むべき一冊」と言わしめた。 著者であるクリス・ミラーは30代の新進気鋭の経済史家。国際関係学で有名なタフツ大学フレッチャースクールの学者でありながら、驚くべき文才の持ち主である。400ページ超にわたる分厚いだが、語り口の滑らかさから、読んでいてその分量を感じさせない。 しかも、各章は10ページ以内におさえられ、テーマや国ごとに区切られている。年代に応じて、アメリカ、ソ連、日中国台湾韓国、東南アジアと半導体の主要国を中心にストーリーが展開されて

    『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』 - HONZ
  • 『津久井やまゆり園「優生テロ事件」、その深層とその後』異常な犯罪者は異常な社会から生まれる - HONZ

    読むのにとても時間がかかったのは、著者が巨大な問いと格闘しているからかもしれない。戦後最悪ともされる凶悪事件を通して、私たちの社会の奥底で起きている変化をとらえた力作だ。 書は、神奈川県相模原市の障害者施設、津久井やまゆり園で、入所者と職員45名が殺傷された事件の深層に迫ったノンフィクションである。事件そのものを取材したは他にもあるが、書が類書と一線を画すのは、サブタイトルにある「戦争と福祉と優生思想」という視点だ。一見バラバラな3つの言葉は実は深いところでつながっている。それだけではない。著者の人生もまたこの事件と無関係ではなかった。 ノンフィクションのディープな読者は著者の名前に見覚えがあるかもしれない。著者には浅草で起きた短大生殺人事件に関する著作(『自閉症裁判 レッサーパンダ男の罪と罰』)がある。2001年、浅草で19歳の女性が見ず知らずの男に刺し殺されたこの事件は、男がレッ

    『津久井やまゆり園「優生テロ事件」、その深層とその後』異常な犯罪者は異常な社会から生まれる - HONZ
  • 『政治家の酒癖』酔いが動かした世界。 - HONZ

    一説によると人類は1万年以上前から酒を飲んでいたらしい。最も古いアルコール飲料はハチミツを主原料としたミードと呼ばれるものであったとも言われている。紀元前4000年ころには古代メソポタミアでビールが飲まれていたし、ワインは紀元前3000年頃から飲まれていた。人はかくも昔から酒を飲み酔っていたのだ。人が酒を飲む理由は様々だろうが、古代や中世の人々が酒を飲むのには、定住生活による水質汚染の問題があったとされている。生水を飲むという行為は非常にリスクが高かったのだ。 とはいえ、酒は酔うことでリラックスした心理状態をもたらして、人と人との間をスムーズにする潤滑油としての機能も担ってきた。当然、酒席での発言や振る舞いが政治に影響を与えてきたのは古今東西の歴史を見れば枚挙に暇がないであろう。政治の世界すらそうなのだ。私たちが日々行う仕事、ビジネスの世界でも酒の影響力は無視できないはずだ。しかし、なぜか

    『政治家の酒癖』酔いが動かした世界。 - HONZ
  • 『霞が関の人になってみた 知られざる国家公務員の世界』「官僚」の魅力とシビアな現実をゆるーく語るエッセイ - HONZ

    国会中、大臣や議員の背後で控えている人々。どこか厳めしく無機質で、原稿を読むときもぼかしたような言い回しをする。「官僚主義」といったネガティブワードに代表されるように、彼ら官僚に好印象を持っている人は少ないと推測する。近年はツイッター等で霞が関の人たちによる暴露が耳目を集め、そのブラックな労働環境に同情されると同時に忌避感も強まっているのは否めない。 そんな官僚たちの仕事と日常をエッセイ風味でゆるーくシビアに語ったのが書である。著者は人事交流という枠組みで2016年から霞が関に入省した人物で、それまでは他業種で10年程度働いていた。「世間のイメージと違う、ナゾに満ちた知られざる霞が関ワールドをお伝えしたいと思った」のが執筆動機だ。 さて、書の特徴として、語り口こそコミカルだが、その労働環境は前述の暴露話のとおりおそろしく過酷な点がまず挙げられる。 たとえば、質問通告による国会待機。国会

    『霞が関の人になってみた 知られざる国家公務員の世界』「官僚」の魅力とシビアな現実をゆるーく語るエッセイ - HONZ
  • わからない、でも考えるべきだ。『死刑のある国で生きる』とはどういうことなのかを - HONZ

    あなたは死刑に賛成ですか? 賛成、反対、あるいは、どちらでもない or わからない。 はたして即答できるだろうか。決して身近な問題とは言いにくいので、普段から考えている人は多くないだろう。しかし、とても重要な問題だ。この問題を考えることは、生きるとはなにか、人権とはなにかという大きな命題に思いを巡らせることになるのだから。 作者の宮下洋一はスペインに根拠を置き、世界中を取材するジャーナリストである。2018年に、『安楽死を遂げるまで』で講談社ノンフィクション賞を受賞したのも記憶に新しい。日人が無意識のうちに宿しているメンタリティーを保ちながら、十分な国際感覚を活かして取材して書き上げたノンフィクション。その多彩な視点、そして客観と主観を行き来しながら進める考察に感心した。しかし、驚くには早すぎたようだ。私にとっては、前作よりも作の方がはるかに面白かった。 安楽死は、突き詰めると、不治の

    わからない、でも考えるべきだ。『死刑のある国で生きる』とはどういうことなのかを - HONZ
  • 『ゼレンスキーの素顔 真の英雄か危険なポピュリストか』 - HONZ

    2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナへの全面侵攻は世界を震撼させた。侵攻以前からロシアウクライナ国境付近に軍を集結させていたが、当に軍事作戦に踏み切るのか、それともただの脅しなのか、様々な情報が錯綜していた。世界の耳目を集めていた案件だけに、いざ侵攻が始まると既存のメディアはもとよりSNSなどでもロシア軍の動きは逐一報じられ、次々と現地の映像があふれ出したのを今でも覚えている。 首都キーウ近郊の空港がロシアの特殊部隊による攻撃を受けるなど、当初はロシア軍の電撃作戦が功を奏しているといった印象があり、ウクライナは数週間の内に敗れるのではないかと多くの人が思ったはずだ。しかし、ここで予想外の事態が3つ起きる。ひとつはロシア軍の予想外の手際の悪さ。次はウクライナ軍の強固な抵抗。そして最後がゼレンスキー大統領のリーダーシップだ。キーウへ迫りくるロシア軍と着弾するミサイルを目の

    『ゼレンスキーの素顔 真の英雄か危険なポピュリストか』 - HONZ
  • 『アスリート盗撮』スポーツ界を動かした調査報道 - HONZ

    世の中を動かした調査報道は、社員寮での会話から始まった。 東京・港区三田に、共同通信東京社勤務の若手らが住む「伊皿子寮」がある。 「私たち、東京に来てから何もしてないよ。このままだとやばいよね」 2020年8月のある日、寮のロビーでデリバリーの夕をつまみながら、ふたりの女性記者が話し合っていた。鎌田理沙記者は19年春に入社し、一年間松江支局で勤務した後、20年に社の運動部に配属された。品川絵里記者は18年入社で、大分支局で勤務後、同じく20年春に運動部に配属されていた。だがこの時、ふたりが取材できるスポーツの現場はほぼ消滅していた。 新型コロナウイルスはこの年の始めから日でも猛威を振るい始め、国内のスポーツイベントはことごとく中止となった。夏に開催予定だった東京五輪・パラリンピックも史上初の一年の延期が決まっていた。 試合を取材する機会はなく、記事も書けない。そのかたわら同年代の記

    『アスリート盗撮』スポーツ界を動かした調査報道 - HONZ
  • 『政治学者、PTA会長になる』これぞ街場の民主主義!政治学者が世間の現実と向き合った1000日の記録 - HONZ

    「その悩み、○○学ではすでに解決しています」みたいなタイトルのを見かけることがある。あなたが日々の仕事で直面する悩みや課題は、すでに最新の学説や理論で解決済みですよ、というわけだ。 だが当にそうだろうか。最新の学説や理論を応用すれば、世の中の問題はたちどころに解決するものだろうか。 著者は政治学を専門とする大学教授である。「話すも涙、聞くも大笑いの人生の諸々の事情」があって、47歳にして人の親となった。小学校のママ友やパパ友のほとんどは干支一回り以上年下だ。そんなママ友からある日「相談があります」と呼び出され、いきなりこんなお願いをされた。 「来年、PTA会長になってくれませんか?」 まさに青天の霹靂だ。驚いた著者は必死に出来ない理由を並べ立てる。「フルタイム・ワーカー」だから無理!「理屈っぽくて、短気で、いたずらにデカいジジイ」だから無理!ところがママ友は決してあきらめず、最後は情に

    『政治学者、PTA会長になる』これぞ街場の民主主義!政治学者が世間の現実と向き合った1000日の記録 - HONZ
  • 『地方メディアの逆襲』共に生きて、共に歩む。これからのメディアのあり方 - HONZ

    記者の仕事は過程がそのまま表に出てくるのが魅力的だ。記者が何に問題意識を持ち、どう行動して、どんなメッセージを込めるのか。好きな報道や作品には、記者の怒りや悲しみ、執念さえも感じることが出来る。記者一人ひとりの存在自体が物語性を帯びていて面白い。 では、「地方紙」の記者はどうか。全国紙の記者と地方紙の記者の違いについて、私は書を読むまで考えたことがなかった。分かったことは、地方紙の記者が抱く怒りや悲しみは、その地域で生きる人々の怒りや悲しみであった。住民と共に生きて、共に歩むからこそ、地方メディアが生かされる。 書は、秋田魁新報、琉球新報、毎日放送、瀬戸内海放送、京都新聞、東海テレビ放送の6社を取り上げる。新聞記者やドキュメンタリー制作者などのメディアの担い手に取材を行い、社内の意思決定の過程も含めて「地方メディアのリアル」を描いた作品だ。 地方紙の記者には、地元の人間もいれば、大都市

    『地方メディアの逆襲』共に生きて、共に歩む。これからのメディアのあり方 - HONZ
  • 『部活動の社会学 学校の文化・教師の働き方』「保護者の期待」も影響 過熱する部活動の問題を分析 - HONZ

    中学校の部活動は多くの人が経験する。それだけに個人の体験から語られがちな領域でもある。地獄のような日々の思い出しかない者もいれば、青春の美しい1ページ、いや青春そのものと捉えている人も少なくない。 評者自身は典型的な前者で「なんで土日も部活三昧なんだ」「別にプロになるわけではないし」と毎日の練習が苦痛でしかなかった。当時は周りを見渡しても、誰もが部活動に有無を言わさず参加させられ、教員もそれを是としていた。なぜ、誰も声を上げないのか、それほど部活動は尊ばれるべきものなのか。こうした二十年来の疑問に編著者の内田良は「はじめに」で明確に答えてくれる。 彼は、「部活動の研究者は皆無に等しい。それもそのはずで、部活動は『教育課程外』、すなわち『やってもやらなくてもいい』活動だからである」といい、「むしろ『やってもやらなくてもいい』からこそ、そこに部活動の課題が潜んでいると表現すべきであろう」と指摘

    『部活動の社会学 学校の文化・教師の働き方』「保護者の期待」も影響 過熱する部活動の問題を分析 - HONZ
  • 一気読み必至の警察ノンフィクション!『警視庁科学捜査官』 - HONZ

    読み始めた途端、あの日の記憶が鮮明に甦った。 1995年3月20日、月曜日の朝だった。地下鉄で「異臭事件」が発生したとの一報を警視庁記者クラブで聞いた。当時の無線記録によれば、通信指令部に八丁堀駅での乗客の異変を知らせる無線が入ったのは8時21分である。3分後、築地駅から「ガソリンがまかれた」との情報が入り、他の駅からも相次いで被害報告が入った。建物を飛び出し霞ヶ関駅に走った。近づくにつれ言葉を失った。そこには日常が完全に暗転した光景が広がっていた。 原因物質が「サリン」であると発表されたのは午前11時だった。 ロス疑惑やトリカブト事件などを手がけ「伝説の一課長」と呼ばれた寺尾正大捜査第一課長の憤怒の形相は生涯忘れないだろう。書を読んで、事件の一報からサリンと発表されるまでに何が起きていたのか、そのディテールを初めて知った。 著者は当時、警視庁科学捜査研究所(科捜研)の係長だった。捜査

    一気読み必至の警察ノンフィクション!『警視庁科学捜査官』 - HONZ
  • 『潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景』宮城の海に潜り続けた男の濃密な半生を描く評伝 - HONZ

    その人にしか語り得ない境地というものがある。人生は十人十色だが、特殊な技能が必要で、なおかつ特異な環境に我が身を起き続けた人の軌跡はとりわけ面白い。 書は、若くして潜水の才能を発揮し、宮城の海から無数の遺体を引き上げてきた男・吉田浩文の激動の半生を綴る克明の記録である。 初めての遺体引き上げは1996年。死者は交番勤務の男性警察官で、車ごと海中に突っ込む入水自殺であった。 岸壁が関係者でごった返すなか海に潜り、遺体の青白い顔に鳥肌が立ったものの、車に手早くワイヤーをくくりつけ、的確にクレーン引き上げを指示した。祖父の代から潜水業を営み、高校は日で唯一の潜水土木を専門で教える岩手県種市高等学校に進学。29歳の若さとはいえ潜水士としては10年以上のキャリアを持つ吉田には容易い仕事だった。 機動隊や海上保安部のダイバー隊員をはるかに上回る高い技術を買われ、警察から次々と遺体引き上げ案件が舞い

    『潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景』宮城の海に潜り続けた男の濃密な半生を描く評伝 - HONZ
  • 科学の真髄ここにあり!?『ヘンな科学”イグノーベル賞” 研究40講』がおもろすぎるぞ。 - HONZ

    あと1年少しで定年を迎える。その後は、『こぐこぐ自転車』以来、勝手に師匠と仰いでいる英文学者・伊藤礼先生の『ダダダダ菜園記 明るい都市農業』を片手にちっさい畑での農業にいそしもうと思っている。あこがれの、晴耕雨読、ときどき物書き生活。 もうひとつ、秘かにイグ・ノーベル賞を狙った研究をおこなうつもりだ。もうネタは決まっている。どう測定するかがちょっと難しいのだけれど、かなり面白い仕事になるはずだ。そのお手になりそうなのが、この『ヘンな科学 “イグノーベル賞" 研究40講』である。 毎年のようにその受賞が報道されるので、イグ・ノーベル賞のことはご存じの方が多いだろう。1991年に創設された「人々を笑わせ考えさせた業績」に与えられる賞で、もちろん、その名が示すようにノーベル賞のパロディーだ。その中から、比較的最近の受賞対象を、それも、笑えるモノを選りすぐってあるだけあって、むちゃくちゃおもろい

    科学の真髄ここにあり!?『ヘンな科学”イグノーベル賞” 研究40講』がおもろすぎるぞ。 - HONZ
  • 『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』呪術合戦は、安倍晴明と蘆屋道満の戦いさながら! - HONZ

    ミャンマーはタイと同じ敬虔な仏教国というイメージが強い。2011年には軍事政権から民主政権に移行した。長い軟禁状態から解放されたアウンサンスーチーが16年に国家顧問となって政権の中枢に立ち、昨年の総選挙では与党が過半数を獲得したことは記憶に新しい。 13年にヤンゴンに新聞記者として駐在していた著者は、情報省の中堅幹部との会談で「テインセン大統領の誕生日を確認できない」と愚痴をもらした。答えは「国家指導者はアウラーンを恐れているから決して生年月日を明かさない」というものだ。 ビルマ語のアウラーンとは黒魔術のこと。呪詛を恐れ政治指導者たちの誕生日は最高機密で、さらには政権運営に占星術が大きく関与しており、数秘術や呪術によって物事は決められていくという。 書は「政治とおまじない」を軸に二十世紀末からの、ミャンマーの政治的な出来事を四つの項目に分けて取材したルポルタージュだ。 第一章は著者の愚痴

    『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』呪術合戦は、安倍晴明と蘆屋道満の戦いさながら! - HONZ
  • 『不寛容論 アメリカが生んだ「共存」の哲学』 - HONZ

    あんり氏は神学者で、その研究内容は必ずしも一般向けとは言えない。著作で扱っているのも、キリスト教の教義論争がメインコンテンツだ。なのに、その内容は、いつも同時代の問題意識にぴったりとシンクロしている。『反知性主義』しかり、『異端の時代』しかり。 今回の『不寛容論』も、まさにそういうだ。 日人はなんとなく、「キリスト教もイスラム教も、一神教で凝り固まっている連中って独善的だよね。それに比べて、多神教の日人はずっと寛容じゃん!」と思っている。実際、和辻哲郎、梅原猛、山折哲雄といった哲学系の日研究者でそう主張している人も少なくない。しかし、森氏は「それは違う」とはっきり述べている。 2018年に刊行された『現代日の宗教事情』というに紹介されている「世界価値観調査」によると、日は、調査対象となった6カ国(アメリカ中国、インド、ブラジル、パキスタン、日)の中で、「他宗教の人を

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  • 『アルツハイマー征服』圧倒的な取材力と筆力で読ませるサイエンス・ノンフィクション! - HONZ

    書のプロローグは、「青森のりんごの形が良いのは、季節ごとに、こまめに手当てをするからだ」という、青森在住のわたしにとっては、不意を突かれる一文ではじまります。 なぜ、アルツハイマーので、青森のりんごなのか? その理由はすぐにわかりました。青森には、家族性アルツハイマーの大きな一族があるというのです。長身で美男美女の多いその一族は、おそらくは結婚相手に困ることはなかったのでしょう、よく繁栄したといいます。しかしどういうわけか、四十代、五十代になると、おかしなことが起こる。二戸陽子さん(仮名だそうです)の身にも、それが起こります。四十歳になる頃からりんごの作業ができなくなり、やがて、りんごの収穫期に、りんごの実ではなく、葉っぱを摘んで持ち帰るようになる。すると一族の人たちは、こうささやきあったそうです。「これはまきがきたのかもしれない」 ここでわたしはまたしても、ドキッとしました。「まき」

    『アルツハイマー征服』圧倒的な取材力と筆力で読ませるサイエンス・ノンフィクション! - HONZ
  • 『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露本 - HONZ

    『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露 このをここで紹介していいものか迷ったが、著者の真摯な姿勢に心を動かされたので、おもねらずにレビューしてみたい。 書は、ベストセラー『7つの習慣 最優先事項』の訳で一躍売れっ子翻訳家になった著者が、出版社との様々なトラブルを経て業界に背を向けるまでの顛末を綴った、げに恐ろしきドキュメントだ。 驚くことに、名前こそ伏せてあるが、理不尽な目に遭わされた出版社のプロフィールが文や帯でずらずら書かれている(業界歴の長い人ならすぐにわかるのではないか)。著者の名前をネットで調べれば翻訳を担当した書籍がばんばん出てくるし、もはや告発書、暴露と言っても過言ではない。 まずは著者が経験した「天国」から。 出版翻訳家を夢見たのは21歳のとき。大学卒業後は大学事務員、英会話講師、

    『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露本 - HONZ
  • 『声が通らない!』居酒屋で店員に声を届かせたい! - HONZ

    こんな経験はないだろうか。 ガヤガヤと混み合う居酒屋で「すいませーん」と店員に声をかける。 だが、まったく気づいてもらえない。 手をピンと伸ばして、もう一度叫んでみても結果は同じ。 「すいませーん!す、すいませーん……。す……すい……」 声をあげるたびに腕が下がっていき、最後は曖昧な語尾とともに萎んでしまう……。 世間には「声が通らない」ことに悩む人たちがいる。 たしかに特定の人に向けて発せられた言葉が、受け止められることなくそのあたりに漂ったままになっている様子を思い浮かべると、ちょっといたたまれない気分になる。無視されているわけではないとわかっていても、存在に気がついてもらえないのは、ある意味、無視されるよりも悲しいかもしれない。 書は「声が通らない」ことにコンプレックスを抱く著者が、「通る声」を目指してあれこれ奮闘するルポルタージュである。ラジオの仕事にたずさわる者としては「待って

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  • 『国道16号線 「日本」を創った道』 - HONZ

    私が住む東京都町田市の小田急町田駅の東口の広場には「絹の道」という石碑がある。それをゼミ生に見せてからJR横浜線の下り線に乗り、八王子に向かう。その車中で、なぜ八王子と町田を結ぶこの街道が絹の道と呼ばれるか、学生たちに説明する。 このあたりの多摩丘陵の地形地質が桑畑に向いていて、それが地域の養蚕業を盛んにしたこと。そうして絹製品の産業基盤がこのあたりにあったところに、幕末期に盛んになった生糸輸出で、山梨や長野、群馬の生糸がいったん八王子に集まり、そこから輸出港横浜まで運搬されるルートができたこと。その流通加工拠点であった八王子には富が蓄積されたし、横浜までは生糸を馬の背に乗せて運ぶにも一日では歩ききれないので、行商人たちがその中間地点の町田で一泊してお金を落としたこと。横浜で生糸を売り捌いて懐が暖まった行商人たちが、おそらく帰路についた一泊目の町田で羽根を伸ばしたので町田には町の規模の割り

    『国道16号線 「日本」を創った道』 - HONZ
  • 『地方選 無風王国の「変人」を追う』米大統領選にも負けない!日本の地方選挙の面白さ - HONZ

    「地方は国よりも大きい」などと言うと、そんなわけないだろとツッコミが入りそうだ。でも事実そうなのである。 日経済全体に占める地方政府(都道府県と市町村全体)の最終支出は、58兆5千億円。GDPの約11%である。一方、中央政府(国)のそれは22兆円あまり(『地方財政白書』平成30年度版)。地方政府の支出は国の2.5倍に及ぶ。 上下水道や道路などのインフラ整備、ゴミの収集、教育から介護に至るまで、私たちの生活は地方政府によって支えられている。にもかかわらず私たちは、自らが住む市区町村のことをあまりにも知らない。たとえば、書の冒頭で著者が投げかける次のような質問に、どれだけの人が答えられるだろうか。 あなたは自分が住んでいる市区町村の首長のフルネームを言えますか。 そもそも名前をご存知でしょうか。 その人のホームページやフェイスブックを見たことがありますか。 あなたが住んでいる市区町村の議会

    『地方選 無風王国の「変人」を追う』米大統領選にも負けない!日本の地方選挙の面白さ - HONZ