なかなか大胆なタイトルである。著者はいわゆる「近代経済学」の本流を歩んだ人で、その思想は穏健なリベラル派といっても過言ではない。資本主義のさまざまな欠陥を一歩一歩改革し、よりよい体制に近づけようというリベラル色のある近代経済学の立場は、経済学史ではケインズの師匠であったマーシャル以来の正統派中の正統なのだが、ベルリンの壁の崩壊以降、市場原理主義的な言説が論壇を席巻し、「漸進主義」の立場が少数派扱いされるようになった。憂うべきことだ。 著者も、1990年代からわが国における経済格差の拡大という問題に取り組み、日本の学界や論壇に警鐘を鳴らしてきたのだが、傘寿を超えて、その総決算というべき研究成果を一般の読者にも広く知ってもらいたいという意図で本書を書いたのだろう。 サブタイトルにあるように、古典派から現代に至る欧米経済学の歩みの中での格差問題の取り扱いを概観した上で、ピケティ『21世紀の資本』