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ブックマーク / honz.jp (76)

  • 『狼煙を見よ』東アジア反日武装戦線とは何だったのか - HONZ

    狼煙を見よ:東アジア反日武装戦線“狼”部隊 作者: 松下 竜一 出版社: 河出書房新社 発売日: 2017/8/14 警視庁を担当する記者からの一報に驚いた。 「『東アジア反日武装戦線』のメンバー身柄確保との情報」 1974年から75年にかけて起きた連続企業爆破事件に関わった東アジア反日武装戦線のメンバーで重要指名手配犯の桐島聡(70)とみられる男が、警視庁に身柄を確保された。男は末期がんで、別の名前で鎌倉の病院に入院していたが、「桐島聡です」と名乗り出たという。人と確認されれば、半世紀近く逃亡生活を送っていたことになる。 ところが、その3日後に男は死亡してしまった。「最期は名で迎えたい」と話していたというが、告白はギリギリのタイミングだったということか。男が住んでいたボロボロの木造家屋をみて胸を衝かれた。どんな思いで息を潜めるような暮らしを続けていたのだろう。そうまでして何を守ろうと

    『狼煙を見よ』東アジア反日武装戦線とは何だったのか - HONZ
  • 『n番部屋を燃やし尽くせ』デジタル性犯罪を暴け! - HONZ

    n番部屋を燃やし尽くせ デジタル性犯罪を追跡した「わたしたち」の記録 作者: 追跡団火花 出版社: 光文社 発売日: 2023/10/24 書を読み始めてすぐ、これは映画やドラマ化のオファーが殺到するのではないかと思った。映像化された際の宣伝文句はおそらく次のようなものだろう。 「韓国社会を震撼させた『n番部屋事件』。前代未聞のデジタル性犯罪の実態を暴いたのは2人の女子学生だった!」 卑劣な犯罪に立ち向かう女子学生のバディもの。さぞや痛快な物語に仕上がるのではないか。 だが、読み進むうちに考えが変わった。これはなまじの映像化に向くテーマではない。犯罪の内容があまりにひどすぎるからだ。吐き気を催すような鬼畜の所業になんども目を背けたくなった。 「n番部屋事件」とは、2019年から2020年にかけて、匿名性の高いメッセージアプリ「テレグラム」内のチャットルームを使い、未成年者を含む女性の暴行

    『n番部屋を燃やし尽くせ』デジタル性犯罪を暴け! - HONZ
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    mfluder 2023/12/19
  • なんだか全然わからないことの楽しさ『中国の死神』 - HONZ

    2000年の夏、ある子どもが家族で北京の公園に遊びに行った。広いその公園には、お化け屋敷のようなものがあった。こわごわ暗闇の中に入っていくと、ゴワゴワした髪の毛の首つり女の人形や、地獄の鬼卒がいた。なぜかそこにティラノサウルスが現れた。 針の山で血みどろになったおじさんや、血の池地獄で煮られているおじさんの間に、草をはむステゴサウルスもいる。最初は怖がっていたその子どもは、その中国の適当さ(?)にすっかり慣れていき、途中から「ハイまた恐竜~」と弟とふざけながら進んだ。その後に大変な出来事が待っているとも知らずに。 そのまま進むと、出口付近にボロボロの老婆(人間)が座っていた。そこには「一回5元」と書いた看板が掲げられている。子どもがわけのわからないまま5元を渡すと、老婆は壁のスイッチを押した。すると、「ウルトラマン! ウルトラマン!」という声とともに、大きな大仏が7色のライトを浴びて姿を表

    なんだか全然わからないことの楽しさ『中国の死神』 - HONZ
  • 『ギフテッドの光と影』突出した才能との向き合い方 - HONZ

    朝ドラで話題の植物学者、牧野富太郎は小学校中退である。授業が退屈すぎて自主退学したことはよく知られている。現代からみれば、牧野富太郎は「ギフテッド」だったのかもしれない。 書はギフテッドの実像に迫ったノンフィクションである。「ギフテッド」という言葉自体は社会に認知されつつあるが、その実態はほとんど知られていない。彼らの等身大の姿を伝える書は、才能とは何か、個性とは何かという問いを私たちに投げかける。読めば、ギフテッドに対する認識が180度変わるだろう。 「ギフテッド」と聞いて、どんな人を思い浮かべるだろうか。多くの人がイメージするのは、「桁外れの天才」かもしれない。人並み外れた頭脳を持つ天才、例えばアインシュタインのような人物のイメージである。 書でまず驚くのは、ギフテッドが決して珍しい存在ではないということだ。海外の研究では、ギフテッドは様々な才能の領域で3~10%程度いるとされる

    『ギフテッドの光と影』突出した才能との向き合い方 - HONZ
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    mfluder 2023/06/11
    “本書でもっとも興味深く読んだのは、戦時中に行われていた日本のエリート教育に関するパートである。太平洋戦争末期の1945年から敗戦をへて2、3年のわずかな期間、日本政府は「特別科学教育」と呼ばれる英才教育”
  • 『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って  ーUDデジタル教科書体 開発物語』書体デザイナー、渾身のドキュメント! - HONZ

    『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って  ーUDデジタル教科書体 開発物語』書体デザイナー、渾身のドキュメント! 「ディスレクシア(発達性読み書き障害)」という障害があることを知ったのは、ほんの数年前のことだ。トム・クルーズがこの学習障害で、台を読むことが出来ず、マネージャーに読んでもらって暗記する、と聞いたときには、そんなことがあるのかと驚いた。 文字をすばやく、正しく、疲れずに読むことに困難のある人を言い、そのメカニズムは完全に解明されていないという。 この障害は日人にも多く、日語話者の5~8%存在するという報告がされているという。知能レベルや知識の欠如に問題はなくても、会話を文字にすることや文字を読み上げることに大きな苦労を強いられるため、「やる気のない子」「読書が嫌いな子」などのレッテルを貼られがちだ。 さらに文字を読むことが困難な人には、発達障害やダウン症、色覚異

    『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って  ーUDデジタル教科書体 開発物語』書体デザイナー、渾身のドキュメント! - HONZ
  • 『ピッツァ職人』ナポリピッツァで人生が変わった! - HONZ

    書は魅力的な「問い」からはじまる。 若きピッツァ職人を取材していた時のこと。著者は職人の言葉にちょっとしたショックを受けた。 「僕、高校に行っていないんですよ。十六の時にナポリピッツァをべて感動して、十七から東京のピッツェリアで働いて、十八でナポリに行ったので」 学校に毎日通うのが当たり前だった者からすれば疑問に思う。高校に行けない事情があったわけではなく、人いわく「いたって普通の学生」だったという。それが「ピッツァをべた感動」ひとつで、人生の方向を決めるなんてことがあるのだろうか。一方で、清々しさもおぼえていた。それは、「学校に行かない選択肢だってある」という発見がもたらした、視界が開けたような感覚だったのかもしれない。 ピッツァ職人の名は、中村拓巳。世界大会で上位入賞するほどの腕前を持つ、1985年生まれのこの若者こそが、書の主人公である。 未成年で、しかもアジア系の男子がひ

    『ピッツァ職人』ナポリピッツァで人生が変わった! - HONZ
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    mfluder 2023/05/27
  • 『香川にモスクができるまで』在日ムスリムの素顔 - HONZ

    読書に付箋は欠かせない。知らなかったこと、驚いたところ、心を動かされた箇所に貼っていく。内容に引き込まれるほどその数は増える。このにもびっしり付箋がついた。初めて知ることがあまりに多かったからだ。初めて知ったこと。それは、在日ムスリムの素顔である。 世界には19億人を超えるムスリムがいるという。このうち在日ムスリムは推計18万3千人(2019年末時点)。世界のムスリム人口からすれば決して多くはない。身近にムスリムの友人がいる日人はそれほど多くないだろう。 他方、ネットにはイスラム教に対する偏ったイメージが溢れている。厳しい戒律、極端な女性蔑視、過激派による自爆テロ。「絶対にわかりあえない怖い人々」として彼らは扱われている。 リアルな姿を知らないにもかかわらず、良くない印象だけは刷り込まれている。ムスリムに対する世間の認識はそんなレベルではないだろうか。 著者は国内外のマイノリティーのコ

    『香川にモスクができるまで』在日ムスリムの素顔 - HONZ
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    mfluder 2023/05/07
    “助け合いが当たり前の彼らに比べ、私たちはなんとバラバラで孤独な存在であることか”
  • 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』書けなくなった批評家を救ったもの - HONZ

    ひさしぶりに会った知人の変貌ぶりにショックを受けることがある。書を書店で見かけた時の驚きもそれに近い。表紙の男性と著者名が一瞬つながらず、人だと気づいて衝撃を受けた。別人のように痩せている。それも何か大病を患ったことをうかがわせるような痩せ方ではないか。 90年代からゼロ年代を通じた福田和也の活躍ぶりは、まさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」という言葉がぴったりだった。「月300枚書く」と人が言っていたように、文芸評論や時事評論、エッセイ、コラムを書きまくり、ワイドショーのレギュラーコメンテーターを務め、文芸誌『en-taxi』を編集し、母校である慶應大学の教壇にも立った。当時、夜の街でもしばしば著者を見かけた。バリバリ仕事をしつつ遊びもこなす姿が眩しかった。 著者を知ったのは学生時代のことだ。江藤淳に才能を見出されたというふれこみで、雑誌『諸君!』でいきなり連載が始まった。破格の扱いだった。

    『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』書けなくなった批評家を救ったもの - HONZ
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    mfluder 2023/05/07
    福田和也の今について“だが、そうした大義名分はいわば表向きのもので、著者を衝き動かしているのは、ただ食べることへの執念であるように思える”
  • 『津久井やまゆり園「優生テロ事件」、その深層とその後』異常な犯罪者は異常な社会から生まれる - HONZ

    読むのにとても時間がかかったのは、著者が巨大な問いと格闘しているからかもしれない。戦後最悪ともされる凶悪事件を通して、私たちの社会の奥底で起きている変化をとらえた力作だ。 書は、神奈川県相模原市の障害者施設、津久井やまゆり園で、入所者と職員45名が殺傷された事件の深層に迫ったノンフィクションである。事件そのものを取材したは他にもあるが、書が類書と一線を画すのは、サブタイトルにある「戦争と福祉と優生思想」という視点だ。一見バラバラな3つの言葉は実は深いところでつながっている。それだけではない。著者の人生もまたこの事件と無関係ではなかった。 ノンフィクションのディープな読者は著者の名前に見覚えがあるかもしれない。著者には浅草で起きた短大生殺人事件に関する著作(『自閉症裁判 レッサーパンダ男の罪と罰』)がある。2001年、浅草で19歳の女性が見ず知らずの男に刺し殺されたこの事件は、男がレッ

    『津久井やまゆり園「優生テロ事件」、その深層とその後』異常な犯罪者は異常な社会から生まれる - HONZ
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    mfluder 2023/04/29
  • 『暴れ川と生きる 筑後川流域の生活史』川と人間の共生を実現させるために - HONZ

    筑後川は「筑紫次郎」の異名のとおり「坂東太郎」の利根川「四国三郎」の吉野川とともに日の暴れ川と言われている。さらにここ10年あまり、九州に打ち続く豪雨は毎年のように筑後川とその支流に大水害を起こす。 著者は2009年から九州北部を流れる広大な筑後川流域の全域で、川と人間の共生の歴史を調査してきた。 書の冒頭に掲げられた筑後川全域の地図を見ると、その広さに圧倒される。源流の最奥地は山深い阿蘇や大分の竹田市。名前の違う毛細血管のような支流が合わさり、最後は筑後川となって有明海に注ぎ込む。 古来人々は川に恵みを求め、川を恐れて生きてきた。それぞれの流域の特徴を生かして栄え、水害を回避するための知恵を蓄えてきた。その一つが地名である。 上流に多く見られる“ツエ”とは熊で「崩れる」という意味。山腹の地すべりなどが多いことを指す。 また、かつて中流域に多くあった“ツル”という語音の地名は川が屈曲

    『暴れ川と生きる 筑後川流域の生活史』川と人間の共生を実現させるために - HONZ
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    mfluder 2022/08/26
  • 『キャッチ・アンド・キル』女性たちに「別の扉」を開いた画期的スクープの裏側 - HONZ

    映画業界の性加害報道が相次いでいる。週刊文春の報道をきっかけに被害にあった女性たちが次々に声をあげ、業界にはびこる性暴力の実態が明るみにでた。一部の良識ある映画監督や原作者たちも性暴力に反対するアクションを起こした。この流れは止まらない。かつてアメリカ映画業界を変え、世界にも影響を及ぼしたあの動きが、ようやく日にも波及したのかもしれない。 書の著者ローナン・ファローは、ハリウッドの大御所プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性加害を報道し、#MeToo運動が生まれるきっかけをつくったジャーナリストのひとりである。 ワインスタインは映画界の大物だ。『セックスと嘘とビデオテープ』、『パルプ・フィクション』、『恋におちたシェイクスピア』といった独立作品を大成功に導いた立役者であり、若い俳優をスターダムに押し上げる能力にも長けていた。そこにはグウィネス・パルトロー、マット・デイモン、ジ

    『キャッチ・アンド・キル』女性たちに「別の扉」を開いた画期的スクープの裏側 - HONZ
    mfluder
    mfluder 2022/04/26
    “これに対し、被害女性の物語はどれも個別具体的で感情を揺さぶられる。彼女たちは若くそれぞれに夢があり思い描く未来があった。そのひとりひとりの女性のかけがえのない人生をワインスタインは踏みにじった”
  • 「他人の価値」から自分を取り戻す『当事者は嘘をつく』 - HONZ

    すごいが出た。 いきなりであるが、このの最後の文を紹介したい。 でも、その窮屈な型を破って、新しい型を生み出すサバイバーがきっと出てくる。私の語りの型は、誰かの生き延びるための道具となり、破壊され、新しい型の創造の糧になる日を待っている。(200ページ) この締めくくりの文に、このの性格が表されている。性暴力のサバイバーである著者は、さまざまなを読み、勉強し、考えることで生き延びてきた。血まみれになりながら知識を身につけてきたと言えるだろう。そして、彼女だけの創造する力を得てきた。引用のとおり、このは著者の小松原さんが得た力を、また別の人に渡すために書かれたである。 私がの中で驚いた箇所がふたつある。ひとつは、読書のしかただ。文中に、ジャック・デリダの『言葉にのって』の「赦し」に関する部分を小松原さんが読んだときのエピソードが出てくる。小松原さんは、この部分を読んだとき、耐え

    「他人の価値」から自分を取り戻す『当事者は嘘をつく』 - HONZ
  • 『ソ連兵へ差し出された娘たち』“数え年で18歳以上、未婚” その慟哭は今も聞こえる - HONZ

    1945年8月9日、ソ連の対日戦参戦によって満州開拓団の日人移民は祖国に捨てられた。日に引き揚げるまでの悲惨な生活は、さまざまな小説や手記によって明らかにされてきた。だが、女性たちの経験を語ることはタブーとされてきた。 著者は中国残留孤児の取材中、ソ連兵が日人女性を襲うという蛮行の裏に、日人集団内の支配関係によって強いられた犠牲があったことを知る。開拓団の人から頼まれてソ連兵のところへ行かされた、というのだ。調査を続けるうち岐阜県黒川村を中心に満州へ渡った黒川開拓団の女性からの協力を得た。 取材の数か月前に亡くなったという犠牲者のひとり、善子さんは「乙女の碑」という4ページの詩を残していた。その一節を引く。 乙女の命と引き替えに 団の自決を止める為 若き娘の人柱 捧げて守る開拓団 残された日人には集団自決か、死を覚悟して脱出するか、この場で生き残りに賭けるか、しか選択肢はなかった

    『ソ連兵へ差し出された娘たち』“数え年で18歳以上、未婚” その慟哭は今も聞こえる - HONZ
  • 『AI監獄ウイグル』史上最悪の「AI監獄」は誰によってつくられたか - HONZ

    「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」とは、ドイツの哲学者、テオドール・アドルノの言葉だ。アウシュヴィッツを生んだ文明の野蛮さを乗り越えることなしには、人間の存在も野蛮なままだと彼は考えた。 だが残念ながら21世紀も事態は変わっていない。それどころか「より洗練された野蛮」とでも呼ぶべき事態が出来している。書は中国の新疆ウイグル自治区で進行中の恐るべき人権弾圧に関するルポルタージュである。 新疆ウイグル自治区には約1100万人ものイスラム系ウイグル族が住む。彼らに対する中国政府の苛烈な弾圧はすでに広く報じられ、強制収容所の実態なども知られるようになった。欧米諸国が北京冬季五輪の「外交ボイコット」を表明し、国際問題に発展したことも記憶に新しい。だが書を読むまで、この問題の真の恐ろしさをわかっていなかった。書が告発するのは、人権弾圧の背後にあるテクノロジーの問題である。 自治区

    『AI監獄ウイグル』史上最悪の「AI監獄」は誰によってつくられたか - HONZ
  • 『SS将校のアームチェア』ユダヤ系歴史家の調査が 「一般のナチ」の姿に迫る - HONZ

    書の著者、ダニエル・リーは第2次世界大戦を専門とする歴史家で、ユダヤ系英国人でもある。あるとき彼に依頼が舞い込んだ。依頼主はヴェロニカという女性だ。彼女の母が故郷のチェコで購入したアームチェアを修理に出した際、座面の中からナチスに関する書類が出てきたという。依頼は、なぜそんな物が椅子の中に隠されていたのかを調査してほしいというものだった。 書類は1933〜45年のもので、戦時債券、株券、上級国家公務員2次試験の合格証明書、パスポートなど。どの書類にも、Dr.ローベルト・アルノルト・グリージンガーという名前が記されていた。グリージンガーは法務官で、43年3月にナチ占領下のプラハに派遣されていたようだ。その来歴に興味を持った著者は早速調査を開始する。 書類を頼りにドイツやチェコ・プラハなどの公文書館を訪ね歩き、この男がシュトゥットガルト出身の法務官で、ナチ党員にしてSS(親衛隊)の将校であっ

    『SS将校のアームチェア』ユダヤ系歴史家の調査が 「一般のナチ」の姿に迫る - HONZ
  • 『古代中国の24時間』英雄たちの歴史の陰に民衆の変わらぬ日常があった - HONZ

    「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか」という言葉がある。暗い場所から明るい場所はハッキリ見えるが、明るい場所から暗い場所は見えないだろうという意味だ。この言葉は、歴史の捉え方という観点から見ても、非常に示唆に富む。 中国古代史、中でも秦や漢の時代について語るとき、真っ先に脳裡に浮かぶのは、始皇帝、項羽と劉邦、三国志の武将など、その時代の太陽ともいえる人たちばかり。だが、激動の時代の頂点に君臨する英雄の足取りをもってその時代を理解する、という手法に見落としはないのだろうか。 英雄の陰には、名もなき民の支えがあるものだ。こうした人々の日々の営みの集積もまた、歴史を動かす要因になったことだろう。ならば、その時代に社会を下支えしていた人々は、どのような暮らしをしていたのか。何時に起床し、何回事をとり、どのようにトイレで用を足したのか。 書は古代中国の人の1日、24時間を、「未来からやってきた

    『古代中国の24時間』英雄たちの歴史の陰に民衆の変わらぬ日常があった - HONZ
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    mfluder 2022/01/24
  • この世の不幸が集まったような清の女性の暮らしを体験『私がクリスチャンになるまで――清末中国の女性とその暮らし』 - HONZ

    1873年から1879年、中国田舎でキリスト教を広げる活動をしたアデル・M・フィールドというアメリカ人女性がいた。書は、アデルが宣教先の中国人女性たちの人生を聞き取ったものだ。 日だと明治7年、徴兵令がはじまった年、この頃の中国人女性の人生と暮らしはどのようなものだったろうか。 庶民の人生を伝える書物はどの国でも少ない。日でももちろんそうだ。私たちが読めるのは、権力を持つ人たちの記録が中心で、庶民の生活史がわかるものは貴重だ。その上このは、人たちが語った素朴なものをそのまま収集しているから、まるで友達の話のようにありありと聞ける。 書には、15人ほどの女性が登場する。淡々と語られる人生は、とにかく不幸だ。日記のように普通に語られる内容に、当時の女性のおかれていた、信じられないくらい差別的な生活が人生だったことに気が滅入ってくる。 不幸の原因は、まず、すべての基が「家」だとい

    この世の不幸が集まったような清の女性の暮らしを体験『私がクリスチャンになるまで――清末中国の女性とその暮らし』 - HONZ
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    mfluder 2022/01/08
    “現代の目で見たらバカバカしいことでも、その時代に生きた人は、「空気」には勝てない。しかも、現代と地続きなことも感じられる。「家」と「神」が中心にあった時代の空気とはこういうものだったのだろうか”
  • 過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』 - HONZ

    過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』 この『ゴーイング・ダーク』は、イスラム聖戦主義者やキリスト教原理主義者、白人のナショナリストや極右の陰謀論者、過激なミソジニストたちの組織など、12の過激な主義主張をかかげる組織に著者が潜入したさまをつづるルポタージュである。 潜入が実施された期間はおおむね2017年から18年にかけての2年間で、その間に著者はオンライン活動への参画を中心としながら、そうした組織の裏側でどのような活動や勧誘が行われていて、彼らがどんな思想を持っているのかをつぶさに見ていくことになる。 著者が潜入するのは初心者にもハッキング講座を施してくれる、親ISISのハッキング組織から白人ナショナリストなど過激な思想を持つもののみが参加できる特殊なマッチングサイトまで様々だが、そこには共通する人間の傾向や勧誘の手口が

    過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』 - HONZ
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    mfluder 2022/01/08
    “ディスカッションを観察し、音声チャットに耳をすますうちに、わたしにもだんだんとわかってきたのは、タブーを破る楽しさがどれほど退屈しのぎになるか、そして帰属意識がどれほど孤独を癒してくれるかということ
  • 『娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件』無責任と人間性の欠落 教育現場の抱える闇 - HONZ

    北海道旭川市の中学校に通っていた廣瀬爽彩(さあや)さんは、2021年2月13日夕方に失踪し、38日後に市内の公園で雪の中に埋もれ亡くなっているのを発見された。享年14、早すぎる死だ。 彼女は中学校に進学した19年からイジメを受けており、PTSDに悩まされていたという。彼女の身に何が起きたのか。文春オンライン特集班が一連の事件を取材、公開した記事に加筆修正のうえ再構成したのが書である。 爽彩さんは絵の大好きな女の子。小学生の頃は学校も塾も大好きだったという。シングルマザーとして娘を育ててきた母親は、仕事で忙しくはあったがそれ以上に愛情を注いで育ててきたと語る。それは、掲載されている幼少期の愛らしい笑顔の写真を見れば一目瞭然だ。 彼女が急変したのはY中学校に入学してすぐのこと。明るい笑顔は消え、ふさぎがちになった。イジメを疑った母親は学校に相談するも、担任の教師は「彼氏とデートなので明日じゃ

    『娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件』無責任と人間性の欠落 教育現場の抱える闇 - HONZ
  • 『絶滅魚クニマスの発見』を読む 第4回:「この種」から何を学ぶか - HONZ

    山梨県西湖でクニマスが生きていることがわかった。でも、わーい、よかったよかった、チャンチャン、では話は終わりません。さあ、ここから先、どうすればいいのか。どうしたいのか。あなたならどうする? 少し話を戻しますと、絶滅魚クニマスの発見にからんでDNA解析が大きな役割を果たすだろうということは、わたしでも想像がつきました。実際、DNA解析の威力はすごい! ですが、DNA解析に負けないほどの力を、生態学的研究がもっているとは、正直、想像していませんでした。このふたつ(DNA解析と生態学的調査)は、車の両輪だったのですね。ごめんなさい、生態学研究を舐めてました。生態学とか分類学とか、まったくの門外漢なのですよわたし。お魚の、「幽門垂」とか「鰓耙」とかいった細かいパーツの数を、顕微鏡を使ってコツコツ数えあげるといった地道な作業に、自然と生物のインタープレーを明らかにするうえでこれほどの力があろうとは

    『絶滅魚クニマスの発見』を読む 第4回:「この種」から何を学ぶか - HONZ
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    mfluder 2021/11/09
    “ヒメマス釣りは、続けたほうがよい。ヒメマスにまじってクニマスも釣られちゃうんだけど、それでも続けたほうがよい。一定の管理下でヒメマスのふ化放流と釣りを継続するほうが、実はクニマスの保全にもつながる”