特異な状況下での謎解き小説に定評のある作家、白井智之さんの新刊『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』(新潮社)は、宗教コミューンで起きた連続不審死事件の真相を、大胆な論理で解き明かす本格ミステリーだ。終盤に繰り出される推理の連打が、読み手をカタルシスへ誘う。 物語の舞台は、次々と奇跡を起こす新興宗教の教祖と信者が暮らす南米の集落。調査に赴いた助手を捜しに探偵が乗り込むなか、調査員たちが一人また一人と不審死を遂げる。人間には不可能としか思えない状況での殺人だが、奇跡を信じる信者たちには不思議でもなんでもなく、真相究明は難航する……。 2020年の『名探偵のはらわた』では、「津山三十人殺し」などがモチーフの歴史的凶悪事件の犯人たちが現代によみがえり、探偵と頭脳合戦を繰り広げた。評価も高く、姉妹編にあたる本作でも実在事件に範を取ることに。副題から想像できる通りの「人民寺院事件」。1978年、南米