阪谷芳直・鈴木正編『中江丑吉の人間像 兆民を継ぐもの』風媒社 何処で読んだか忘れたが、中江兆民は息子が車引きになってもいいように丑吉という名前をつけたと記憶している。しかし姉は千美といい、弟の娘には猿吉(えんきち)と名付けているところから、ただの珍名マニアだった可能性もある。千美は学校の成績が良かったが、終業式で「右総代中江チビ」と呼ばれるのが嫌でたまらなかった。中江家ではネグロという黒猫を飼っていた。朝になると皆が自分の掛け布団の裾を少しあけて、ネグロを呼び、誰の所へ来るかは猫に任せて、人の所へ行っても文句は言わないという規則があった。しかしネグロは丑吉の寝床へは絶対やってこなかった。丑吉に体中をしつこくいじくりまわされるのが嫌だったからだ。丑吉は時々癪にさわり、規則を破ってネグロを捕まえて自分の床へ持ってくるのだった。父はいけないと言い、姉は怒り、母だけが丑吉を弁護した。千美が丑吉を幼