今日Upした『沙石集』巻7第6話「嫉妬の心無き人の事」は、嫉妬をテーマにした短い12の説話が詰め合わせになっている。テーマがテーマだけに、なかなか面白い説話が多く、おなじみの長くて難解な説教もない。 その中でも、一番面白かったのが、この説話。 遠江国、池田のほとりに、庄官ありけり。かの妻、きはめたる嫉妬心の者にて、男をとりつめて、あからさまにもさし出ださず。所の地頭代、鎌倉より上りて、池田の宿にて遊びけるに、見参のため、宿へ行かんとするを、例の許さず。「地頭代、知音なりければ、いかが見参せざらん。許せ」と言ふに、「さらば、符(しるし)を付けん」と、隠れたる所に摺粉(すりこ)を塗りてけり。 さて、宿へ行きぬ。地頭、みな子細知りて、「いみじく女房に許されておはしたり。遊女呼びて遊び給へ」と言ふに、「人にも似ぬ者にて、むつかしく候ふ。しかも、符付けられて候ふ」と言うて、「しかじか」と語りければ、