ちょうど一年ほど前、東京のとある街角で撮った一枚の写真を披露しよう。わたしにとっては、いわば古典と現代との境に迷い込んだのではないかとの思いに捉われた一瞬であった。気持ちの動揺は、揺れるカメラアングルからも覗けそうだ。 これは、高校だと思われる一つのクラス風景だった。車が通わない道路を教室代わりに使い、一人の先生と十数名の学生が集まり、そこに展開されているのは、いわゆる「ナンバ歩き」、すなわち左右同じ側の手と足が同時に前に出したり、後ろに残したりする歩き方の理論と実践だった。先生は熱心に講義しながら実演をして見せ、学生たちは一列ずつ手まね足まねで前へ進む。若い女の子たちの笑い声が遠くまで聞こえていた。 「ナンバ歩き」を、自然な生活風景の一こまとして現代で見出せるとは、少なからず意外な思いだった。一方では、古典の文献、それまた絵巻などビジュアル的な資料において、人間の、そして人間に模して姿を