アメリカの中古レコード店について書かれた文章というのを、ほとんど見かけたことがない。そんなモノに興味を持つのはごく限られた人に違いない、それもそのはずだと思っていたら、最近ふと購入した村上春樹著「やがて哀しき外国語」(1994)に実に面白い一文をみつけた。1991年から2年半に渡ったアメリカ滞在記である同書の一節、「誰がジャズを殺したか」の中に、実に魅力的な語り口で、とある中古レコード店のことが描かれている。 村上春樹がジャズ喫茶を経営していたことがあるのは、有名なエピソードだ。店をたたんだあとはしばらくジャズから遠ざかったらしいが、どうやら昔の虫が囁き始めたようで、この時のアメリカ暮しでは「中古レコード店をまわってジャズの古いレコードを漁ることが、大きな楽しみになってしまった。いちばんの娯楽と言ってもいいくらい」だったという。いくつかの店の内部の様子、値段の付き方、意外な穴場の発見など、