山口さん(以下、敬称略) 本書の「美意識」にはいろいろな意味合いがあり、道徳観念に加え自分らしさを鍛える力も「美意識」と表現しました。今日の対談では狭義の意味、つまり西洋美術史の文脈で「歴史的に美しいと位置付けられている美術を見抜く審美眼のような能力は鍛えられるのか」を考えます。 僕は鍛えられると思っています。小林秀雄(文芸評論家)も言っていますが、骨董屋に入った小僧が真贋を見抜く能力をどうやって鍛えるかといえば、専門家から良いと評価されているものをずっと見続けると、偽物が出てきたときに分かるというんです。 僕自身、子供のころから絵画や音楽などで“本物”に多く触れてきたので、あるときその良さがパッと分かるという感覚を何度も体験してきました。 例えば、ロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーの話は有名です。彼は来日したとき、若手日本人が作曲した大量の音楽テープを早送りで聴いていたようです。