傑作。モハマド・ラスロフ長編二作目。ペルシャ湾に浮かぶ朽ちかけた石油タンカーで暮らす不法占拠者たちの物語。タンカーはネマト船長(ネモ船長への目配せか?)と呼ばれる老人によって支配されている。彼は毎日のように船内を巡回して住民たちの悩みを聞き、女たちの内職や男たちの船解体を指揮し、外部との交渉も行い、なんなら娘の結婚まで斡旋し、子供たちへの教育も整備するというように、表向きは"慈悲深き"指導者である。一方で、自分の定めたルールに従わない者には容赦しないという一面もある。つまり、ルールを破らなければ彼は優しき父親的存在のままであり、船で暮らす人々は彼を信頼して生活している。そんな奇妙なまでに自給自足が成立しているが、実は少しずつ沈んでいる船というのは、現状維持で少しずつ死んでいく国家そのもののようだ。船には個性的なメンバーがたくさんいる。ずっと太陽の方向を見つめて何かを探しているサデグおじさん