2020年4月中旬から連日、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺において中国公船が確認されている。7月2日現在で異例の80日連続を記録するなど、その緊張感はかつてないほどに高まっている。 そんな中、日本の防衛戦略に警鐘を鳴らした“ドキュメント・ノベル”が注目を集めている。元自衛隊特殊部隊員の伊藤祐靖氏による『邦人奪還』だ。同書は、尖閣諸島・魚釣島の灯台に、中国の特殊工作員が中国国旗を掲げる事件から始まる。北朝鮮で有事が起き、それに日本人が巻き込まれたとき、政府や自衛隊はどう動くのか。「非常にリアルなシミュレーション」と話題の同書より、冒頭部分を特別公開する。 ◆◆◆ 《プロローグ 海鳴り》 月の明かりが海面に反射し、水平線へと続く一本の道になっていた。月は、水平線に向かって加速度的にスピードを上げ、遂に接触した。道は一気に月に到達したが、月が沈むにつれ細くなり、月没と同時にその姿を消した。 瞬きを