「メスを入れる」という表現。これは「明らかになっていないが、暴かれて根本的に解決されるべき状況を打開するための策を講じる」といった意味の慣用句として、ニュースなどでかなり頻繁に使われています。ところがこの言い方は、外科医にとってはかなり違和感がある表現なのです。その理由を、外科医として日々手術を執刀している立場の筆者がお話しましょう。特に勉強にはなりませんので、日曜午後の思索のお供に、勉強の合間に、休日出勤の一休みにどうぞ。 メスには「背番号」がある今でも私はほぼ毎日、手術室で「メス」と言っています。手術が始まる時、「直接介助(ちょくせつかいじょ)」のナース、通称「器械(きかい)出し」の看護師さんに言います。そしてこの記事の画像のメスを受け取ります。細かいことを言うと写真のメスは尖刃(せんじん)と呼ばれる先の尖ったメスで、私が主に使うのは円刃(えんじん)と言われる切る部分が緩やかなカーブを