照る日曇る日第715回 この人も新作が出れば読まずにはいられなくなる、気になる小説家です。それはこの作家が太宰に似て、一生懸命に読者をよろこばせようとするからなのです。 今回はなんでも老人シリーズの最終回ということで、書評家の老人とその娘と孫娘が登場して(同居しているのです)、ああだこうだと例によってつらくてさいわいうすい人世のあれやこれやのエスキスを配給してくれます。 いろいろあって私(たち)とおんなじように人世に消耗し疲れ果てた老人と孫娘は、カウチに腰を沈めていろんな映画をみてゆくのです。 その中で彼らが語るルノワールの「大いなる幻影」、サタジット・レイの「大地のうた」、そして小津の「東京物語」の感想というか批評がまことに秀逸で、とりわけ「東京物語」の有名なラストシーンンのオースター流の解説を読んでいるうちに(そこでは主に笠智衆が原節子に手渡した東山千栄子遺愛の懐中時計について語られて