いきなり女が、背景から切りとられた、輪郭だけの存在になっている。 二十歳の男は、観念で発情する。四十歳の男は皮膚の表面で発情する。 しかし三十男には輪郭だけになった女が、一番危険なのだ......まるで自分自身を抱くように、気安く抱くこともできるだろう これは、小説家・安部公房の代表作『砂の女』の一節。砂丘のなかにある村の一軒家に閉じこめられた男が、そこに住む女に発情をもよおした時の胸中描写だ。 再読を繰り返し、ボロボロになってきた『砂の女』(新潮文庫版) 『砂の女』を初めて読んだのは中学生の頃だったろうか。その時は特に深く考えずに読み飛ばしていたが、再読するたびに気になってきた箇所だ。 引用箇所は、どうやら20代、30代、40代と、年を重ねると惹かれる異性のポイントも変わっていきまっせ、といっているらしい。 「最近、ケツ派になってきた」 「一周回っておっぱいに還ってきた」 「いや、やっぱ