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WWDC24
www.newsweekjapan.jp/sam
<トランプの元弁護士たちが相次いで司法取引で寝返り、一連の裁判はドラマのような展開に。そして現在、トランプの弁護は誰も引き受けたがらず、「超軽量級」の弁護士が務めるはめに> アリナ・ハバは、見れば見るほど再現ドラマの役者に見えてくる。この人物が数年前まで「世界最強の権力者」だった男の弁護士だとはにわかに信じ難い。法律家としての実績も経験もあまりに乏しい。 ドナルド・トランプ前米大統領にとっては、一連の裁判をうまく乗り切れるかどうかで残りの人生が大きく左右される。それなのになぜこんな軽量級の弁護士を抜擢したのか。 理由は単純だ。まともな弁護士は誰も引き受けてくれないのである。過去にトランプの弁護士を務めた面々の現状を見てほしい。 マイケル・コーエン弁護士は、反トランプの急先鋒に転じ、トランプが金融機関から有利な条件で融資を受けるために資産評価額を大幅に水増しした経緯を裁判所で証言した。トラン
<ハマスの奇襲攻撃はイスラエルにとっての「9.11」だった、はず......それなのに、イスラエル寄りのアメリカでパレスチナ支持が広がる背景とは> ハーバード大学やコロンビア大学など、米名門大学の一部学生がパレスチナへの支持を表明したことが、深刻な分断をもたらしている。学生たちの行動をきっかけに、大学への寄付を取りやめる大口寄付者も相次いでいる。 寄付者たちは、大学当局が反ユダヤ主義を黙認し、テロを支持する主張を許容していると考えて、怒りをたぎらせているのだ。いわば「イスラエル版9.11テロ」のような出来事の後、野蛮な斬首やレイプ、赤ちゃんや高齢者の惨殺を正当化するなど言語道断だ、というわけだ。 しかし、学生たちの反応は意外なものではない。2001年の9.11テロ直後、パレスチナに共感する人は16%だったのに対し、イスラエルに共感する人はその3倍を超えていた。この点では、共和党支持者も民主
<日本はこの10年で「最も健全な民主主義国家」となったのに、長らく国際社会での存在感が薄く、戦略的重要性の薄い諸国の後塵を拝してきた。グローバルサウスの大半で西側諸国の評判が低下している今こそ、日本の指導力が求められる> 5月19 日に広島で始まるG7サミットは、不確実な未来に突き進む世界の中で日本がその要となる輝きを示すまたとない好機だ。この10年で、日本は「最も健全な民主主義国家」を名乗る資格を勝ち得てきた。それはG7各国が相次ぐ危機に揺れるなかでの、いわば消去法によるむなしい勝利だが、果てしない変動の世界で傑出した安定性を示してきたのは確かな事実だ。 経済危機の嵐が迫り、ウクライナによる反転攻勢が始まろうとする今、強力な民主主義国家の指導者たちが集まるG7サミットへの注目は高まるばかりだ。1962年のキューバ危機以来、最も核戦争の脅威が高まっていると言ってもおかしくないこの時期に、被
ChatGPTの登場は大学教育を高める絶好のチャンス PHOTO ILLUSTRATION BY DADO RUVICーREUTERS <ChatGPTは教育にとって脅威どころか、大学にとっては逆にプラス。「米国最高の教授」の1人であるサム・ポトリッキオが語る、目からうろこの理由とは> 対話型人工知能(AI)「チャットGPT」が登場したとき、大学教員の間でパニックが広がったが、私は逆に祝杯を挙げた。 同業者の多くはAIが膨大な不正行為を生み出しかねないと心配したが、私は学生のより公平な成績評価につながる可能性があると考えた。これから不確実な未来に向かっていく学生たちを教育する上で、その在り方を見直すきっかけにもなり得ると思った。 チャットGPTの脅威に同僚たちが過剰反応したのは、学生が大学の授業で提出するレポートや小論文などの作成をAIに「お任せ」すれば、スキルのない怠け者になってしまうと
<アメリカでも高齢者福祉にメスを入れることは政治的なリスクを伴うが、それでも......。成田発言について、「米国最高の教授」の1人であるサム・ポトリッキオが考えてみた> 米ジョージタウン大学の教え子の学部生が最も怒ったのを見たのは2020年夏、いつ対面式の授業に戻れるかを話し合っているときだった。 私は2年後の卒業までマスクの義務化は解除されず、対面接触のチャンスがない状態が丸1年続く可能性が高いという予測を口にした。学生たちはひどく動揺した。無理もない。大学時代は人とのつながりを育むのに最適な時期なのに、大半を「ズーム大学」で過ごすことになると言われたのだから。 しかし私にとってショックだったのは、数人の学生が高齢者に殺意のこもった怒りをぶつけ、家から出ない年寄りを守るために人生を台無しにされたと暴言を吐いたことだった。 成田悠輔エール大学助教の「高齢者の集団自決」発言を知ったとき、こ
<ロシアでは、リベラル派も反プーチン派も、内心ではウクライナの敗北を望んでいる――日本には伝わりづらいロシア人の本音とは> 昨年2月、ロシア軍がウクライナに侵攻する直前、ロシア安全保障会議でウラジーミル・プーチン大統領に発言を求められてまごついてしまい、テレビカメラの前で恥をかいた高官がいたことをご記憶だろうか。その高官、セルゲイ・ナルイシキン対外情報庁長官は、私が特別教授を務めたロシア国家経済・公共政策アカデミーの評議会議長だったこともある人物だ。 ナルイシキンはプーチンの長年の側近で、大統領府長官、下院議長、対外情報庁長官などの要職を歴任してきた。この人物が過去に行った仕事の1つが、ロシアの歴史教育を根本から変えることだった。この歴史教育の転換に着目することで、ウクライナ戦争に対するロシア国民の反応をより深く理解できると私は考えている。 ナルイシキン率いる「歴史改ざんによりロシアの国益
過大評価しすぎ? 世界のSNSユーザー数ランキング15位のツイッターに対して、絶大な影響力を感じてしまう訳 <日本はツイッターのユーザー数がアメリカに次ぐ世界2位。だが、ツイッターの世界は実世界を忠実に反映しているわけではない> ツイッターは、ヘビー級のチャンピオンをノックアウトする力を持った軽量級ボクサーと言っていいかもしれない。ここでクイズを1つ。世界のソーシャルメディアのユーザー数ランキングで、ツイッターは何位か(月間アクティブユーザー数で判断)。 たぶん4位か5位くらい? いや、正解は15位だ(14位はピンタレスト、16位はレディット)。ツイッターの4億3600万人のユーザー数は、フェイスブックの7分の1程度にすぎない。意外に少ないと感じた人も多いだろう。それほどまでに、ツイッターの存在感は絶大だ。 どうして、私たちはツイッターに対して、実際のユーザー数を大きく上回る影響力を感じて
<権力基盤は盤石に見えるプーチンだが、戦況は悪化し病気説も。「ツァーリ(皇帝)退場」後の後継者と政局を予測する> 数年前、ロシアのサンクトペテルブルクで開かれた国際会議でのこと。「外国人がロシアについて尋ねる質問で、最もくだらないと思うものは何か」と問われ、ロシアの政治評論家はこう答えた。「プーチンの後継者は誰か?だ」 ウクライナでの戦況悪化にもかかわらず、プーチンは8月末時点で83%と高い支持率を維持している。これは2014年のクリミア併合の直後とほぼ同じで、これまでのプーチンの支持率の平均と比べても15~20%高い数字だ。(編集部注:独立系調査機関レバダセンターが9月下旬に実施した世論調査でプーチンの支持率は77%) プーチンはウクライナ侵攻に自分の歴史的評価を懸けている。この戦いをピョートル大帝の事績になぞらえ、ロシア1000年の歴史の一ページとして位置付けようとしている。一方で世論
マガノフ(右)はプーチンから勲章を授与された人物だった MIKHAIL KLIMENTYEVーKREMLINーSPUTNIKーREUTERS <自殺、儀式中の心不全、転落死、溺死......。相次ぐロシア「ビジネス界の大物の不審死」は、本当にプーチンへの裏切りの代償なのか?> ソ連崩壊を決定付けた1991年のベロベーシ合意の立役者4人は、これで全員亡くなった──ゴルバチョフ元ソ連大統領が死去した2日後の9月1日、友人のロシア人ジャーナリストから、そんな冗談めかしたテキストメッセージを受け取った。 4人のうち、エリツィン元ロシア大統領以外の3人がロシアのウクライナ侵攻以降に死亡していると、彼は指摘した。友人は陰謀論嫌いで有名だ。だから、3人の死が何らかの意図に基づく可能性を問うことはせず、こう返信した。ウクライナでのロシアの残虐行為や失敗が明白になった時期に、3人が立て続けに亡くなったのは統
2018年、ワシントンで行われた第41代大統領ブッシュの国葬 DOUG MILLSーPOOL/GETTY IMAGES <アメリカでは大統領経験者の国葬は制度化されているが、国葬にふさわしい行いをしなければならないと、自身の職責の重さを実感する役にも立っている> 安倍晋三元首相の衝撃的な暗殺から1週間後、岸田文雄首相は安倍の国葬を発表し、激しい論争を巻き起こした。首相経験者としては55年ぶりの国葬を行う理由について、岸田は「暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く」強い決意が根底にあると述べた。この決断は正しい。 アメリカの場合、大統領の国葬は総合的かつ緻密に計画された複雑なイベントだ。通常は1週間かけて行われ、陸軍の一部門であるワシントン軍管区が詳細な計画を担当する。儀式の構成と手順は綿密に決められており、その概要をまとめた手引書は通読すると5時間かかる。 アメリカ大統領の国葬は184
<試算では1万ものカルトが存在するアメリカで起きた驚愕の事件と今も続く政教問題> 安倍晋三元首相は退任後も目覚ましい活躍を続けるはずだった。活力にあふれ、強い信念を持ち、気持ちはまだまだ若い――。2030年代まで国内外の政治に影響を与えたとしても、私は驚かなかっただろう。 だが運命は思わぬ悲劇を呼ぶ。安倍は特定の宗教に近いと信じた男によって銃撃された。 私は銃撃と宗教カルトによる政治的陰謀の両方が最も起きやすい国に住んでいる。最も有名なのは、1970年代の「人民寺院」事件だ。 教祖のジム・ジョーンズはサンフランシスコの政界に人脈を築き、75年の市長選で重要な役割を果たした後、同市住宅公社のトップに就任。当時はカリフォルニア州知事のジェリー・ブラウン(ハリス現副大統領の政治的助言者で大統領選にも出馬した)から称賛される存在だった。 人民寺院の信者が身体的・精神的虐待を告発すると、ジョーンズと
<飛行機のチケットは4割増し、空港からのタクシー料金は3倍超......レーガン政権以来の物価高に全米が悲鳴をあげている> アメリカが現在のような高インフレを最後に経験したのは40年以上前。私はまだ母の胎内にいた。 そして今、私が海外出張からワシントンに戻るたび、彼女は送迎の運転手役を買って出てくれる。「サム、空港からのウーバーの料金はパンデミック前は20ドルだったのに、今は70ドルよ!」と、母は言う。 私は幸いユナイテッド航空(UAL)の株主だが、さもなければ飛行機代は38%も値上がりしていた。 このコラムはバイデン大統領の自宅近くにあるビーチで休暇を過ごしながら書いている。3年ぶりにアメリカで車を運転したが、25ガロンのタンクのガソリン代が記憶にある限り初めて100ドルを超え、125ドルになった(1ガロン=5ドル)。 世論調査によれば、インフレを「非常に心配している」アメリカ人は回答者
「 魔法の盾」で法的追及をかわしてトランプは高笑い? JOEL MARTINEZーPOOLーREUTERS <数々の告発を受けながら有罪にもならず次期大統領選挙の最右翼であり続けられる3つの理由> ドナルド・トランプ前米大統領にまつわる民事・刑事の疑惑や告発のたぐいは数知れない。 この3月末にも米連邦地裁が昨年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件に関連して法律に違反した可能性を指摘するなど、ホワイトハウスを去って1年以上がたった今も新たな法的疑惑が増え続けている。 浮上している疑惑や告発の数々を見ると、前大統領はそれこそありとあらゆる分野でルールや規範を破っていたと言えそうだ。これまでの法的トラブルは、主として4つの領域に分類できる。 第1は、昨年1月の連邦議会襲撃事件に関与した疑い。バイデン現大統領に敗れた2020年の大統領選の結果確定を妨げ、暴動をあおったと指摘されている。 第2は、脱税、
<「私たちは自分の着る服を自分で作ることはしない。それは服のメーカーを信用しているからだ」という心理> ロシアの最も信頼できる独立系調査機関のレバダセンターが発表した世論調査によると、「戦争効果」でプーチン大統領の支持率が押し上げられているようだ。 2月に71 %だった支持率が最新調査では83%まで上昇している。厳しい経済制裁、戦場での膨大な数の死傷者、世界のメディアによる非難の大合唱の下でも、いまプーチンは過去最高水準の支持率を獲得しているように見える。 どうして、こんなことが起きるのか。ロシアの有名テレビ司会者(現在は国外に脱出)は、プーチンを支持するロシア人の心理をこう説明する。 「私たちは自分の着る服を自分で作ることはしない。それは、服のメーカーを信用しているからだ。ロシア人は、ニュースに関しても、作り手、つまり政府が提供するものを信じている。プーチン体制下の22年間、ロシア人は基
傷心の離陸(モスクワのシェレメチェボ国際空港、イメージ) REUTERS/Stringer/File Photo <ウクライナ侵攻前にロシアの友人から送られた「メッセージ」に胸騒ぎを覚えた> 昨年の妻への誕生日プレゼントは、ロシアの国内旅行だった。行き先に決めたのは、ダゲスタン共和国。そこはアメリカ政府からはっきりと「渡航するなかれ」との御触れが出ている地域だった。アメリカ市民にとってはテロや誘拐などの不安要素が多いからだ。 私が客員教授を務めるロシアの大学の総長に旅行のことを伝えると、彼は渡航中止を求めつつも、ダゲスタンの知事に連絡を取り、私たちが安全に旅行ができるよう取り計らってくれた。その旅行は妻への誕生日プレゼントだけではなく、生後1カ月の娘にとって初めての旅行でもあったからだ。 こうしたことから、在ロシア米大使館は昨年の年末年始から定期的に私に注意喚起を行っていた。アメリカ人を標
ロシアがウクライナに 侵攻した2月24日の モスクワ・赤の広場 ANDREY RUDAKOVーBLOOMBERG/GETTY IMAGES <多くのロシア人は親族にウクライナ人がいるが、それでもなおプーチンの戦争を支持している> 子供時代のウラジーミル・プーチンに関する有名な話がある。 貧しい環境で育ったプーチン少年は、アパートでしばしばネズミと遭遇した。あるとき、1匹のネズミを隅に追い詰めたことがあった。 すると突然、そのネズミが猛烈な勢いで歯向かってきた。その経験を基に、プーチンはこう忠告している。敵を窮地に追い込んだときは、激しい抵抗があると覚悟しておいたほうがよい、と。 今のロシア情勢に重ね合わせると、実に不吉な忠告だ。ウクライナ問題で追い込まれたプーチン大統領がこのエピソードのネズミのような行動を取っても不思議でない。 西側で指折りの安全保障専門家の1人もその可能性を指摘する。
<私のロシアの親族や友人は――。一般市民はウクライナをどう見ているか。ロシア国内でのプーチンの歴史観や侵攻に対する評価は。彼らロシア人には「中国」という別の懸念もある> ※本誌2月22日発売号(3月1日号)「緊迫ウクライナ 米ロ危険水域」特集より 戦争などあり得ない──短期滞在中のロシアで、私が話を聞いた地元の人のほとんどはそう考えている。 ウクライナとの戦争の可能性は? この点を知人のロシア人たちに尋ねると、たいてい「欧米メディアの過熱報道に影響されすぎだ」とからかわれる。 ロシア人は2つの理由により、「侵攻が差し迫っている」という見方を否定する。1つは、ウクライナがロシアにとって家族に等しい存在だからというもの。そしてもう1つは、ウクライナの抵抗が熾烈を極めるはずだからというものだ。 昨年夏、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が長大な論文を発表した。題して「ロシア人とウクライナ人の歴
<輝きを失った背景には失言や人種差別なども指摘されるが根本的な問題はそこではない> カマラ・ハリスは、ついに現代アメリカ史上最も不人気な副大統領になってしまった。 11月の世論調査では支持率が30%を割り込んだ。副大統領就任当時の輝きはどこへ消えてしまったのか。 人気急落の要因としては、バイデン政権で任されている政策の難しさ、不安定なコミュニケーション、そして女性初・黒人初・アジア系初の副大統領として直面する差別が主に指摘されている。これらの指摘は、いずれも的を射ている面がある。 まず、ハリスはバイデン政権で移民政策の陣頭指揮を執っているが、政権の移民政策を支持する人は35%にすぎない。しかも、移民問題はハリス自身の看板政策でもあるので、支持率へのダメージがひときわ大きいとされる。 また、コミュニケーション面にも確かに問題がある。つい最近のテレビインタビューでも救いようのない失言をした。今
<4カ月前に指名されながらやっと米上院で認められた新大使。当初のバイデンは彼を中国に送りたがっていたのだが......> アメリカの各国駐在大使を格付けすれば、中国と日本の大使が1位と2位だろう。 今年8月に、ラーム・エマニュエル前シカゴ市長が駐日大使に、ニコラス・バーンズ元国務次官が駐中国大使に指名されたことは、2つのポストが今後の国際政治にとっていかに重要かを裏付けるものだ。 バイデン米大統領の人選はまさに絶妙だった。人選の舞台裏を知る人物によれば、バイデンは当初、エマニュエルを北京に、バーンズを東京に送りたがっていたという。 確かに気性の激しい政界の大物を駐中国大使に据えることは、中国に対抗するアメリカの本気度と強い姿勢を伝えるという意味では合理的だ。だが、今年3月にアラスカで行われた外交トップ同士の会談が激しい非難の応酬に終わったのを受けて、バイデンはアメリカで最も有能な職業外交官
<国内の武装勢力が外国のイスラム過激派以上の脅威になったアメリカ社会の危うさ> あの教授はたぶんCIAだよ──私が通っていたのは、そんな冗談がクラスで飛び交うような大学だった。 クラスメイトのほとんどは政治家や外交官を目指していて、アメリカ大統領を8年間務めたビル・クリントンも私たちの大学の卒業生だった。 大学に入学して2週間。史上最強の大国の最も有名な政治学部で学んでいた私たちは、2001年9月11日、世界が変わりつつあることを漠然と感じることになった。その時、私は教室で授業を受けていて、教授の話に退屈し始めていた。 教授の携帯電話が鳴ったのは、午前9時の数分前だったと思う。教授の顔色が変わったのを覚えている。授業はすぐに打ち切りになった。授業開始の数分前にニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機が激突したのだ。 その後、これが単なる事故ではなく、その旅客機がもともとはホワイトハウスに
<圧倒的な勝利を収め続けてきたスポーツ大国の意外な世論と、開催可否に悩む日本への直言> 日本は新型コロナウイルス感染拡大の第4波に見舞われ、1年延期した東京五輪の開催を危ぶむ声が広がっている。ワクチンの接種は始まったが、感染者数と死者数は大幅に増加を続け、新規感染者数は連日5000人を上回っている。日本国内の世論を見ても、予定どおり開催できるという意見は4分の1以下だ。 一方、過去の大会で圧倒的な強さを誇ってきたアメリカでも、国民や政府が五輪開催を熱望しているようには見えない。 実は数十年前に比べ、五輪に対するアメリカ人の関心は大幅に低下している。2016年の世論調査では、51%が五輪中継を熱心に見るつもりはないと答え、開催国を知っている回答者も半分以下だった。 競技面で最も成功を収めている国があまり興味を示さなくなっているのであれば、大会が中止になっても大した騒ぎにはなりそうにない。 五
派手さはないが国際政治のカギを握る存在に?RODRIGO REYES MARINーPOOLーREUTERS <のちの歴史家が菅政権を重要な転機だったと位置付けても不思議ではない理由とは> 長らく安倍晋三前首相の番頭を務めてきた菅義偉首相は当初、内政で強みを見せるとみられていた。だが新型コロナ対策でのつまずきを見ると、勝機は外交にあるのかもしれない。その始まりは日米首脳会談だ。 日本の首相が近隣諸国以外で最初の外国訪問先としてアメリカを選ぶことは、これまでも珍しくなかった。しかし、4月16日にワシントンで予定されている菅首相とバイデン米大統領の首脳会談には特筆すべき点がある。菅は、バイデンが大統領就任後初めて直接対面する外国首脳なのだ。 菅が一般のアメリカ国民の間ではほとんど無名の存在であることを考えるとなおさら、今回の首脳会談はバイデン政権が菅を極めて重視していることの表れとみていい。 過
<トランプ政権の汚職や虚偽を批判し続けたのに、高齢者施設の死者数を過少報告するなどコロナ対応でも失態を続けたNY知事にはだんまり> ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事は新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)のさなか、同州出身のトランプ大統領(当時)のアンチテーゼとして世界的名声を博した。 だが、もしクオモが今後も政治家を続けたいなら、第45代大統領と同じ武器が必要だ。どんなスキャンダルにも耐えられるテフロン製の盾が。 2020年のパンデミック初期、グラフを多用したクオモの「事実のみを述べる」記者会見は大評判になった。主流メディアはクオモを「真の国民的指導者」と呼び、バイデン現大統領に代わって民主党の大統領候補になる可能性がささやかれたほどだ。 アメリカが経済と公衆衛生の両面で危機に瀕していた当時、クオモは確かに最も威厳のある政治家だった。ほとんどの主要メディアはトークショ
<第45代大統領とは何だったのか。3つの結論から導き出せる混迷アメリカ政治の未来図> トランプ大統領の4年間がようやく終わった。私は第45代大統領のアメリカ史における意味を理解しようと眉間にしわを寄せて考えてみた。 前回の大統領選で敗れた民主党候補のヒラリー・クリントンは、元大統領夫人の資格でトランプの大統領就任式に出席した。このときクリントンは、権力の継続性と移行は重要であり、新大統領に思慮深い統治を望むと親しい友人に語っていた。 だがトランプの演説が始まると、過去に例を見ない大統領の誕生が明らかになった。演説終了後、すぐ隣に座っていた共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領はクリントンのほうを向き、「これはひどいな」と言った。 それからほぼ4年後、ブッシュとクリントンがアメリカ民主主義の将来を危惧した場所のすぐ近くで、トランプ支持者が自国政府を攻撃した──。 結論① トランプ主義は攻撃の
決選前にジョージア州入りしたイバンカ・トランプ(2020年12月) ELIJAH NOUVELAGE/GETTY IMAGES <上下両院とホワイトハウスの3つを支配下に収める小さな奇跡を起こしたが、なぜ民主党は薄氷を踏む勝利しかできなかったのか> 2020年11月の大統領選前には、リベラルの主流メディアは民主党が上下両院を制する圧勝、つまり「ブルーウェーブ(青い波)」が起きると報じていたのではなかったか。なぜ大統領選当日の夜の時点でトランプ大統領は3つの激戦州を接戦に持ち込み、共和党は下院で過半数目前にまで議席を積み増し、上院では民主党にリードしていたのか。 ブルーウェーブが幻に終わったのは、世論調査会社と「エリートメディア」による失態のせいなのか?これには、4つの説明が考えられる。 まず最もよく言われるのが、アメリカはトランプにはノーを突き付けたが、国民の支持は今も共和党と民主党の間で
<さまざまな「史上初」の副大統領就任が確実になったカマラ・ハリス。アメリカ社会の人口構成の急激な変化を追い風に、史上初の女性大統領が生まれる日が近づいている。本誌「バイデンのアメリカ」特集より> カマラ・ハリスは現時点で、「次の次」のアメリカ大統領になる可能性が最も高い人物だ。 ハリスは11月3日の大統領選で、女性として、人種的マイノリティーとして、移民の娘として、そしてアジア系として史上初の副大統領への就任が確実になった。これにより、合衆国憲法の規定上も、そして確率論の面でも、次の次の大統領の座に最も近い存在になったと言える。 今回の大統領選で勝利を確実にしたジョー・バイデン前副大統領は、11月20日で78歳になる。来年1月には、200年を優に超すアメリカの大統領制の歴史の中で最高齢で、世界で一番の激務と言っても過言でないアメリカ大統領の職に就くことになる。しかも、バイデンには脳動脈瘤の
<お祭り騒ぎの選挙集会や瞬発力がものを言う討論会でリーダーの資質は見抜けない。本当の勝者を選ぶにはスポーツとサバイバル番組の要素が必要> 11月3日のアメリカ大統領選投票日は、アメリカ現代史の中で政治的主張が最も激しくぶつかり合った日として歴史に記憶されるかもしれない。 しかし、この政治的論争と対立の時代に、大半の人の意見が一致することがある。それは、アメリカ大統領の選考方法が大統領の重責と釣り合っていない、という点だ。現在の選挙システムでは、大統領が有権者の失望を買うことが避けられない。アメリカは大統領選びの方法を考え直すべきだ。 現在の選挙プロセスは、候補者の統治能力とは全く関係のないことをめぐる争いに終始している。大統領選を勝ち抜いて大統領の座を手にするのは、選挙運動を最も上手に行った候補者だ。それが「よい大統領」になる資質を持った人物だとは限らない。アメリカ大統領は、軍の最高司令官
<米社会の主流から乖離した時代遅れのイデオロギーに関する質問は無視するなど、パフォーマンスは極めて戦略的> アメリカが主要な民主国家の中でも群を抜く政治的分断の渦中になければ、エイミー・コニー・バレットの連邦最高裁判所判事への指名承認プロセスは才気あふれるスーパーウーマンをたたえる晴れの舞台となっていたはずだった。48歳という異例の若さで法曹界のトップに抜擢された彼女は、ハイチからの養子2人を含む7人の子供を育てながら、同僚や元教え子から愛すべき友人として絶大な信頼を集めている。 承認をめぐる公聴会で厳しい質問を難なくかわす優雅な態度からも、バレットの明晰な頭脳は明らかだ。彼女はメモを見ることも、次々に浴びせられる質問を書き留めることもなく答えを繰り出し、メモを参照しないのかという上院議員の問いに真っ白のメモ帳を掲げてみせた。資料を読み上げるばかりだった議員らはもちろん、トランプ政権が過去
<側近の逮捕が続くドナルド・トランプは今年の大統領選挙に全てを懸けて臨む> 2020年米大統領選の情勢を占う上で最も重要な指標の1つは、「いかさまヒラリー」と「寝ぼけたジョー」のグーグルでの検索頻度を比較した棒グラフだ。 16年大統領選の共和党候補トランプ(当時)が民主党候補クリントンに付けた蔑称は、最も頻繁に検索されたキーワードの1つだったが、今回のバイデン前副大統領に対する蔑称はほとんどチェックされていない。 単純なフレーズで政敵をおとしめる名人であるトランプは、戦術の失敗に気付き、代わりに「のろまなジョー」を使うようになった。バイデン候補の最初の公の場での演説(民主党全国大会での大統領候補指名受諾演説)は、1980年代に大統領選に初めて出馬して以来の思いを見事に表現したものだったが、9月29日から始まる予定の3回の大統領候補者討論会でも同レベルの説得力とエネルギーを発揮しなければなら
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