毎日新聞 校閲センター 誰にでも読みやすく正確に伝わることを目指す「新聞の日本語」や、校閲の技術、文字や言葉の話題をお届けします。
A「経営ジッタイのない会社」とB「経営のジッタイを把握」で漢字が異なります。Aは「実際に指摘することのできるような具体的な形を備えたもの」(新明解国語辞典)なので「実体」です。Bは「ありのままの状態」(同)を意味する「実態」になります。 「経営」+「ジッタイ」のように読み方は同じでも意味によって漢字が異なるものは他にもあります。例えば「国境」+「コエル」は、どうなるでしょうか。「国境を越えて亡命」(通り過ぎるという意味)と「国境を超えた愛」(線引きにとらわれない、枠からはみ出すという意味)のように、「越」と「超」に分かれることになります。
新型コロナウイルスに関する記事が大量に出稿されていた時期以来、久しぶりに紛らわしいカタカナの間違いに遭遇しました。 2021年にも同じく「新型コロナウイスル」さらには「新型コロナイウルス」という誤字を紹介しました。 「コロナイウルス」は珍しいケースですが、「コロナウイスル」には時々ヒヤッとさせられます。カタカナ語は誤記がまざっていても意外と見過ごされやすい傾向があります。感染状況にも誤字にも、油断せず気をつけ続けたいものです。
イタリア語翻訳者の関口英子さんに寄稿していただきました。原文から著者の意図をくみ取り、言葉を選びながら日本の読者に伝えるという過程は、校閲の作業にも似通うところがあるように感じます。関口さんは校閲者とのやりとりを通じて、ともに「格闘」していることもつづってくださいました。 関口 英子 (せきぐち・えいこ)イタリア語翻訳者。大阪外国語大学イタリア語学科卒業。小説、ノンフィクション、児童書、絵本、映画字幕など、さまざまなジャンルの翻訳を手掛ける。訳書に、パオロ・コニェッティ「帰れない山」(新潮クレスト・ブックス)、プリーモ・レーヴィ「天使の蝶」(光文社古典新訳文庫)、イタロ・カルヴィーノ「マルコヴァルドさんの四季」(岩波少年文庫)など多数。「月を見つけたチャウラ ピランデッロ短篇集」(光文社古典新訳文庫)で第1回須賀敦子翻訳賞受賞。
写真記者による原稿。報道ヘリコプターから撮影している様子を想像しながら読んでいたところ、「航空機ではヘリコプターのような機敏な動きはできません」。ヘリコプターではなかったようです。「航空機」「ヘリコプター」「飛行機」はどう違うのでしょう。 「航空機」と「飛行機」を辞書で引いてみます。 <岩波国語辞典> 航空機:飛行機・飛行船など、人が乗って空中に浮かび、飛行する機械の総称。 飛行機:ジェット噴射やプロペラの回転によって推進し、胴体に固定された翼で揚力を得て飛ぶ航空機。 <広辞苑> 航空機:大気中を飛行する機械の総称。気球・飛行船などの軽航空機とグライダー・飛行機などの重航空機とに分ける。法令上は、気球・ホバークラフト・宇宙船・ミサイルなどは含めない。 飛行機:動力で推進し、固定翼で揚力を得る重航空機。推進器の種類によってプロペラ式・ジェット式に分けられる。(以下略) <三省堂国語辞典> 航
「じゅうてん」は「充塡」「充填」のどちらにそろえましょう。常用漢字表に載っているのは、つくりの部分が旧字体の「塡」。従来、常用漢字には新字体が採用されてきましたが、2010年に追加された「塡」は表外漢字字体表の字体がそのまま採用されました。 「塡」には「うずめる」「ふさぐ」などの意味があります。漢字使用の目安である常用漢字表に追加されましたが、毎日新聞では読みやすさに配慮し、独自にルビ(ふりがな)付きで使用しています。 常用漢字には従来、手書きの慣習に沿ったり簡略化されたりした新字体が採用されてきました。しかし、10年に196字が追加された際には「世の中で用いられている」(文化庁)ことを理由に、表外漢字字体表などで採用していた伝統的な字体、いわゆる康熙(こうき)字典体が多く採用されました。このため、同じ常用漢字表の中でも字体が微妙に異なるケースがあります。「塡」と「真」もその一つで、他にも
「扉がきしんでいるのか開かなかった」という表現に出くわしました。しかし「きしむ」は「物と物とがこすれ合って音をたてる」(広辞苑)という意味なので、扉が開かないことの理由としてはなじみません。 そもそも扉がぎしぎし音をたてて滑らかに動かないのが「きしむ」ですから「きしんでいるのか」と推測するような書き方にはならないでしょう。「扉」と「きしむ」はよくある名詞と動詞の取り合わせですが、適切かどうか文脈をよく考えて読まなくてはなりません。 この記事は震災で被災した家屋についての記事だったので、「扉がゆがんでいるのか」と直しました。
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