データ再利用性と論文アクセス性の向上に向けた奈文研の取組 奈良文化財研究所・高田祐一(たかたゆういち) ●はじめに 奈良文化財研究所(奈文研)では、2024年1月に「文化財データリポジトリ」を、また同年3月に「文化財オンラインライブラリー」を全国遺跡報告総覧(以下「遺跡総覧」)のウェブサイト内で公開した。本稿ではこれらのサービスについて紹介する。 ●全国遺跡報告総覧について 奈文研が運営する遺跡総覧は、日本全国の文化財に関する調査報告書類の情報を一元的に集め、提供するオンラインデータベースである(E1700、CA1936参照)。研究者、学生、歴史に関心がある方々の貴重な情報源となっている。報告書類の書誌情報、調査成果を要約した抄録、全文PDFが含まれており、歴史と文化を理解するための有用なデータベースである。 ●デジタル時代の調査報告のありかた 遺跡総覧では、約3万9,000件の報告書類の
欧州のリポジトリの現状に関する調査報告書 国立情報学研究所・前田隼(まえだじゅん) ●はじめに 2023年12月5日、OpenAIRE、欧州研究図書館協会(LIBER)、SPARC Europe及びオープンアクセスリポジトリ連合(COAR)は共同で、欧州のリポジトリの現状に関する調査報告書“Current State and Future Directions for Open Repositories in Europe”を公表した。この調査報告書は、2023年1月にOpenAIREらが欧州のリポジトリ・ネットワークの強化を目的として立ち上げた共同戦略に基づき、欧州のリポジトリの現状に関する調査を実施した結果をまとめたものである。調査は、2023年2月9日から3月10日にかけて、欧州を拠点とするリポジトリの管理者を対象としてオンラインで実施され、欧州の34か国から394の回答を得ている。
SPARC Japanセミナー2023<報告> 宮崎大学附属図書館・野中真美(のなかまみ) 2023年11月28日にSPARC Japanセミナー2023「即時OAに備えて:論文・データを「つかってもらう」ためのライセンス再入門」がオンラインで開催された。本稿ではその概要を報告する。 冒頭で山形知実氏(北海道大学)から、本セミナーは、2025年以降の研究論文の即時オープンアクセス(OA)化を実現する動きが加速している流れを受け、研究者は論文やデータの利用についてどのような戦略を立てられるのか、図書館職員や政策立案者といった関係者はどのような支援ができるのかということを、ライセンスという切り口から考えていくものであるという趣旨説明があった。 前半は6人の講師による講演と質疑応答が行われた。初めに、鈴木康平氏(人間文化研究機構)から「30分でざっくり理解するオープンアクセスと著作権」と題し、O
米国化学会によるエンバーゴなしのグリーンOAをめぐる動向 東京工業大学研究推進部情報図書館課・佐藤亮太(さとうりょうた) ●米国化学会の新たなオプション「ゼロエンバーゴ・グリーンOA」とは 2023年9月、米国化学会(ACS)が、通常の12か月の公開猶予期間(エンバーゴ)なく論文をグリーンオープンアクセス(OA)で公開するための新たなオプションとして「ゼロエンバーゴ・グリーンOA」を導入すると発表した。2022年に米国大統領府科学技術政策局(OSTP)が発表した、連邦政府から助成を受けた研究成果の即時公開を求める覚書(E2564参照)を受けての対応とされる。10月1日以降、希望者は“Article Development Charge”(ADC)を支払うことで、論文をCC BYライセンスで公開することが可能となる。なお、ゴールドOAでは出版者版(version of record)が公開の
OAジャーナル出版のためのツールキット 京都大学東南アジア地域研究研究所・設樂成実(したらなるみ) 2023年6月、オープンアクセス学術出版協会(OASPA)およびDirectory of Open Access Journals(DOAJ)により“The Open Access Journals Toolkit”(以下「キット」)が公開された。キットは、オープンアクセス(OA)ジャーナル出版に必要な情報をまとめた無料のオンラインリソースである。出版社、編集者、技術提供者、図書館員、研究者等さまざまな利用者を想定している。6つのトピックから構成され、通読することでOAジャーナル出版にかかる業務の全般を理解し、世界の潮流や留意事項を学ぶことができる。以下、各トピックについて簡単に紹介する。 ジャーナルの創刊 目的と対象領域(Aims and Scope)やタイトルの決定、資金の確保等について
学術雑誌の制作とアクセスの現状に関する調査報告(2022年) 京都大学東南アジア地域研究研究所・設樂成実(したらなるみ) 2022年12月、学術雑誌のソフトウェア・ソリューション・プロバイダーであるScholasticaは学術雑誌の制作とアクセスの現状に関する調査結果 “The State of Journal Production and Access 2022”(以下「報告書」)を公開した。本調査は、2022年6月から10月まで、学会、大学出版会、研究機関、図書館といった、他の出版社に外部委託せずに査読付き学術雑誌の出版を行う出版者を対象に実施され、28か国から82の回答を得た。回答数の上位3か国は、米国、英国、カナダである。主な調査内容は、学術誌の制作のプロセスとフォーマット、メタデータのタグ付けの基準と優先事項、オープンアクセス(OA)への取り組みと資金調達モデルであり、2020年
小規模OA出版社の持続のためのガバナンス:COPIMの取組から 京都大学学術研究展開センター・天野絵里子(あまのえりこ) ●COPIMについて Community-led Open Publication Infrastructures for Monographs(COPIM)は、コミュニティ主導のオープンアクセス(OA)書籍出版を支援する国際的なパートナーシップで、大手商業出版社の独占的なOA出版とは対極の、多様かつ民主的で公平なOA出版を目指す取組である。本稿ではCOPIMの概要とCOPIMによる小規模出版社のガバナンスに関する報告書について紹介する。 パートナーシップに参加しているのは、研究者主体のOA出版社のコンソーシアムであるScholarLed、英国図書館(BL)などの図書館、英・ケンブリッジ大学などの大学、Directory of Open Access Books(DOA
ジャパンリンクセンター(JaLC)の歩みと今後の展望 ジャパンリンクセンター事務局:小林瑠那(こばやしるな) 1. はじめに 「DOI」をご存知だろうか。Digital Object Identifier(デジタルオブジェクト識別子)の頭文字であり、電子化されたObject(有形・無形のコンテンツ)に登録される永続的識別子(PID)である(1)。Object自体とそれを説明するためのデータ(メタデータ)が記されたランディングページとDOIをペアで保存し、ランディングページのURLが変わった場合、情報を更新することで恒常的なアクセスを可能にしている(2)。DOIの前に「https://doi.org/」をつけることによりURLとして機能し、登録されたObjectのランディングページへリダイレクトすることができる(3)。 ジャパンリンクセンター(JaLC)(4)はDOIを登録・運用するDOI登
検索した文化財のデータ。文化財ごとにIDとなる「日本全国文化財番号」を新たに設定した=奈文研のホームページから 奈良文化財研究所(奈良市)は、国や都道府県が指定する文化財に関する報告や記録を集約し、一覧検索できるデータベース「全国文化財目録」を公開した。対象は同じなのに、組織によって異なる名称が使われていた報告書のデータを統合し、情報の収集や比較がしやすくなった。まずは調査概要の情報のみまとめており、今後も関連情報の統合を進めて、研究や情報管理で飛躍的な効率向上を目指す。 国や自治体が公開している文化財約73万件を精査し、同じ対象なのに呼び方の違いなどで重複していたものを除いた約51万件(無形文化財なども含む)に固有のIDを付与。IDごとに調査記録などの情報を関連付けた。関連画像をAI(人工知能)で見分ける仕組みも開発中で、関連する画像をIDごとに集約させることを目指す。発掘担当者などが調
現在位置 トップ > 会見・報道・お知らせ > 報道発表 > 令和5年度 報道発表 > 令和5年度「学術情報基盤実態調査」の結果報告について-大学における大学図書館及びコンピュータ・ネットワーク環境の現状について- 文部科学省では、国公私立大学の大学図書館やコンピュータ・ネットワーク環境の現状を明らかにし、その改善・充実への基礎資料とするため、平成17年度から学術情報基盤実態調査を毎年実施しています。 このほど、令和5年度の調査結果を取りまとめたので、お知らせします。 調査結果の主なポイント 大学図書館編 令和4年度の図書館資料費は718億円であり、前年度より13億円増加。そのうち、紙媒体の資料(図書と雑誌の合計)に係る経費は221億円であり、前年度より10億円減少した。また、電子媒体の資料(電子ジャーナルと電子書籍の合計)に係る経費は378億円であり、前年度より21億円増加した。 オープ
文部科学省では、「障害のある学生の修学支援に関する検討会(座長:竹田一則 筑波大学人間系教授)」を開催し、この度その検討結果を取りまとめましたので、お知らせいたします。 〇障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)(概要)(PDF:252KB) 〇障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)(るびなし:本文・別紙・参考資料)(PDF:1610KB) 〇障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)(るびあり:本文)(PDF:642KB) 〇障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)(テキスト:本文)(Text:115KB) ※テキスト版は、ダウンロードの上ご参照ください。 令和6年3月 障害のある学生の修学支援に関する検討会 はじめに 令和3年5月に障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、「障害者差別解消法」という。)が
1.権利保持戦略を勉強しよう 連載第1回にて、英国では機関リポジトリによるセルフ・アーカイブ(グリーンOA)が機能していることを紹介しました 。ただし英国の場合、機関リポジトリへの登録は論文採択と同時にするのが義務ですが、それを一般に公開するまでにはエンバーゴ(猶予期間)が認められています。日本で2025年度新規採択分からの実施が予定されている[1]、論文出版と同時のOA(即時OA)をセルフ・アーカイブで実現しようとすると、多くの出版社はエンバーゴなしでのセルフ・アーカイブを認めていないし、出版にあたって著者は出版社(専ら海外の)に著作権を譲渡するよう求められるので自分の論文でも出版社の許諾なく公開できない、という問題に直面します。ことは著作権の問題、ということもあって最近ではオープンアクセス関係のセミナーでこの問題の専門家が招かれる機会も増えてきました。特に人間文化研究創発センターの鈴木
対談:Alessio Bolognesi(Head of Journal Development, eLife) × 水島 昇(東京大学大学院医学系研究科) 対談収録日:2023年11月15日 本誌でも2020年2月~10月号に連載したように,現在の査読システムはさまざまな問題を抱えている.例えば,論文の改訂に際して,査読者から膨大な追加実験を要求され,それに答えるために著者は多くの時間,研究費,労力を割き,かつそのために成果の公表も遅れてしまう.とはいうものの,ピアレビューに代わるよい仕組みがないということで,ほとんどのジャーナルが従来型査読システムを採用してきた.しかし,eLife誌は2023年1月より全く新しい査読システムに切り替えた.新しいモデルでは,パブリックに向けた論文評価コメントが公開されたり,出版社や査読者ではなく著者が出版をコントロールできたりと,斬新な点が多い.この過激
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1、文化財オンラインライブラリーの概要 (1)システムの概要と背景 日本には、遺跡、建造物や有形文化財など豊かな文化財があります。それらは丁寧に調査研究され、膨大な調査研究報告書(以下、報告書)が発行されています。インターネットや図書館で報告書を閲覧でき、文化財の発信あるいは、次なる調査研究の基礎資料として貴重なものです。 報告書の電子公開では、近年PDFによる公開が増えています。しかし、PDF形式においては、画像などのデジタルコンテンツと本文が癒着しているため、機械可読性が低く非構造化データであることが課題でした。そこで、まずはデータと本文を分離するために文化財データリポジトリを2024年1月に公開しました。そして本文を掲載するためのプラットフォームを今回公開いたします。 文化財オンラインライブラリー(2024年3月28日公開) 検索 https://sitereports.nabunk
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