『妖星ゴラス』(1962)において黒色矮星を流れ星と評した沢村いき雄を上原謙に侮蔑させ、こうなれば政治の出番はないと総理の佐々木孝丸に諦念させたのは工学者の審美感であった。本作では月の分裂を天文ショー扱いする小学校教師から端を発する庶民嫌悪は人種憎悪へとエスカレーションして、現場で落命する宇宙飛行士はロシア人と中国人ばかりになり、津波に襲われるのはインド西岸で4万人が水没する。 教師と生徒たちが月の分裂を観察する件は『日本沈没』の序盤も思わせる。教師の夫の天文学者は月の分裂に災厄の予兆を覚え、天文ショーに興じる庶民の無邪気さが関節的に報いを受ける。何兆もの月の断片が5000年に渡り地表を爆撃するだろう。3年の猶予の間にISS を拡張しながらそこに収容できるのは1000名強にとどまり残りの人類は全滅する設定であるから死生観への言及は避けて通れないが、物語が主に問うのは宇宙に打ち上げられた工学