サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
WWDC24
www.bookbang.jp
「言語とはジェスチャーゲームのようなものだ」という画期的な見方を提示して話題になっている『言語はこうして生まれる 「即興する脳」とジェスチャーゲーム』。同書に刺激を受けたライムスターの宇多丸さんが、日本語ラップの先駆けであるいとうせいこうさんと対談。コミュニケーション論から日本語の歴史、フリースタイルラップと言語の変化などを縦横に語り合った。 会話の主導権は「聞く側」に? 宇多丸 この本を読んだ時、いとうさんと話したいと思ったんです。 いとう うん。言語というと、ある言葉の「A」というイメージをそのまま運んで、相手がそれを受け取るという風に思ってしまう。でも、実際のコミュニケーションはそんなことはなくて、実は短波放送みたいにすごく雑多なノイズだらけの音の中から正しい歌詞を見出すみたいな作業をしているわけだよね。 宇多丸 そうです。さぐりさぐりで、なんとか工夫しながら、ジェスチャーゲームのよ
石田英敬・評「誰でも分かる、フーコー『性の歴史』」 ミシェル・フーコー『性の歴史』第四巻『肉の告白』ついに刊行! この事件の意味が分からなければ、きみには現代の思想を語る資格がない。でも、センセイ、思想とか哲学なんてボク/ワタクシには関係ありませんのよって、きみはおっしゃるかな? いや、そんなことはないんだよ。きみの周りのこの世界をみまわしてごらん。そして、きみ自身の生と性と精神の経験をふりかえってごらん。あなたは、処女? きみは童貞? ゲイ? レスビアン? ヘテロ? バイセクシャル? トランス? カミングアウトした? #MeTooとかも知ってるよね? いや、あわてないでほしい、これはとってもまじめな話なんだ。思想とか哲学って、そうしたスベテを徹底的に考えることなんだぜ。それでね、そうしたことをあらためて考えるために読むべきなのが、このフーコーの『性の歴史』なんだ。 このたびめでたく新潮社
予告どおり、樋口毅宏『中野正彦の昭和九十二年』(以下『中野正彦』)の回収事件について考えたい。意想外にも、石戸諭による論説「〈正論〉に消された物語」が『新潮』3月号に出たので参照しよう。 『中野正彦』は昨年12月17日に発売が予定されていたが、直前も直前16日に、版元であるイースト・プレスが回収を発表した。これだけでも異常な事態だが、輪を掛けて異常な光景がツイッターでは展開していた。 担当編集者M(男性)の「見本できました。(中略)何事もなく書店に並びますように」というツイートに、同社の女性編集者Kが食ってかかったのだ。 ヘイト本が自社から出されようとしているが、抗議しても担当編集者は聞く耳を持たない、「助けてください」と、MとLINEで交わした問答のスクショまで晒して訴えたのである。 『中野正彦』は、安倍晋三を「お父様」と崇拝するネトウヨ青年の日記の体裁で書かれたディストピア小説である。
結婚を意識し始めるのは何歳から……? 30歳を節目として意識し出す人は多いだろう。それは「港区女子」においても同様らしい。港区女子とは、港区でお金持ちに囲まれ華やかな生活をしている若い女性のことを指す。20代のうちは若さと美貌を武器に都会を闊歩し、「ギャラ飲み」と言われる謝礼つきの富裕層の飲み会やパーティーに参加していても、30代が眼前に迫ると落ち着きたい、結婚したいと思うようだ。 そんな港区女子が陥りがちな「罠」があると言う。指摘するのは、元・港区女子で東大卒の「ジェラシーくるみ」だ。くるみさんは、夜の街で過ごした経験を活かし“夜遊びコラムニスト”として活動をしている。初の著作『恋愛の方程式って東大入試よりムズい』(主婦の友社)は、SNSで大反響を呼びAmazonのレビューが350件以上も投稿される、恋に悩む20歳前後の女性たちの“参考書”となってきた。 東京大学で学んだ元・港区女子が分
1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センは、経済学だけでなく社会思想にも大きな影響を与え続けている。特にセンが重視する「豊かな生(ウェルビーイング)」とは何か? という問いかけは、しばしば功利的な打算に走りやすい人間の暮らし方を見直すきっかけを与えてくれる。本書はセンが若くして経済学者の地位を築くまでの前半生を語ったものだ。20世紀後半の現代史の側面もあり刺激的だ。 原題は、『世界の中の家』と直訳できる。センはインド(当時)の都市ダッカで生まれた。だが、その故郷の「家」だけを指す言葉ではない。センは、個々の人間の様々な属性(人種、民族、宗教、ジェンダー、政治的党派など)に注目する。われわれはつい人間を単一の属性(アイデンティティ)に結び付けて考えがちだ。センが幼少時代に目撃したムスリムとヒンドゥー教徒の対立、宗主国イギリスと植民地インドとの関係は、敵と味方に社会を分断し、個
自由と民主主義は、日本や欧米の多くの国を支える価値観だ。だが、ロシアや中国などの権威主義国家の台頭や、また既得権益を守るさまざまな集団の抵抗によって、この価値観は危機に直面している。社会は分断され、意見の対立が激化することで、自由と民主主義という共通価値がいまや失われつつある。この自由と民主主義の危機的状況とそこからの打開策を、岩田規久男・柿埜真吾『自由な社会をつくる経済学』は、対談形式によってわかりやすく解説している。岩田は、デフレ不況の脱却に貢献してきた経済学者(前日銀副総裁)であり、柿埜はその若き後継者だ。世代を超えた経済論壇のエース同士の対談という点でも面白い。 「歴史を顧みれば、人類史の中で自由な社会は原則ではなく常に例外だった」とする著者たちの問題意識は切実だ。社会が油断すれば、政治や経済活動、そして表現や思想の自由もわれわれはあっという間に失いかねない。しかも日本では「リベラ
世界トップ水準の暮らしやすさ、福祉国家、女性の社会進出率の高さ、ノーベル賞などスウェーデンに対するイメージは評価が高いものが多い。最近では、中立国家としてのスタンスを変更した。ロシアに抗してNATOへの加盟を申請したことが話題になった。人口1千万ちょっとの国だが、その経済・社会の枠組みは、「スウェーデン・モデル」として知られている。スウェーデン・モデルは、高水準の福祉の提供と同時に、着実な経済成長を実現した。 本書は、このスウェーデン・モデルの形成と確立にどのように経済学者たちが関与したのかを、通史的に解説したものだ。スウェーデン経済学の歴史を扱った日本最初の本となる。世界的にもまれで、その学術的な意義は高い。ただし専門知識は無用で、著者の文章のうまさもあり、すいすい読める。 著者が展開する視野も広い。コロナ禍やウクライナ戦争に直面している世界での、国境をまたいだ「福祉世界」の確立を目指す
内山壮真×早見和真・評「甲子園中止から2年目の夏」 新型コロナウイルスの拡大により、夏の甲子園が中止となった2020年。自らも強豪校の球児だった小説家の早見和真さんは、石川・星稜と愛媛・済美という二つの名門校の「甲子園のない夏」に密着し、ノンフィクション『あの夏の正解』を上梓した。 両校の取材を続ける中、早見さんが最も強い印象を受けたのが星稜高校の内山壮真選手の人間性と野球観だった。 高校3年間、プロからも注目され、チームメイトからの信も厚く、キャプテンとしてプレッシャーを背負い続けてきた内山選手は、同書の中で誰にも明かしたことがない胸の内を早見さんに吐露している。 あれから2年。ヤクルトスワローズに入団し、171センチという上背ながらも捕手として一軍で活躍する内山選手と早見さんが、オンラインで邂逅した。 *** 早見 ご無沙汰しています。今日は試合前で時間がないということなので、どんどん
■韓国在住40年の日本人ジャーナリスト、黒田勝弘さんインタビュー 安倍元首相の銃撃事件で注目が集まっている統一教会(現世界平和統一家庭連合)。1950年代に韓国から日本に来たこの宗教、韓国ではどのような存在なのでしょうか。韓国在住40年の日本人ジャーナリスト、黒田勝弘さんに聞いてみました。 黒田さんは2013年に刊行した角川新書『韓国 反日感情の正体』で統一教会について言及。合同結婚式で韓国に渡った日本人妻に着目し、韓国社会の受け止めなどをウォッチし続けています。 ■韓国では「統一教会問題」への関心は低め ――7月の安倍元首相の銃撃事件後、統一教会が大きくクローズアップされており、改めて2013年に刊行した黒田さんの角川新書『韓国 反日感情の正体』を読み直しました。最後の章で、統一教会のことを取り上げていたからです。今回の統一教会問題に関して、韓国での関心はどうですか。 黒田:安倍元首相が
先日亡くなったアントニオ猪木の病床からのリモートインタビューを収録したこの本。どうせ死ぬんだからとそれまで言えなかった真相を告白するなんてことは一切なく、いままで言い続けてきたことを言葉少なに語っているだけで(15分の予定が30分になったそうだが、それぐらいの体調だった)特筆すべきことはないんだが、(ジャイアント)馬場と猪木がテーマの本で「俺にとって馬場さんはライバルではあったけれど、本当の意味でのライバルは他のメジャースポーツであり、俺の敵は世間のプロレスに対する偏見だった」と相変わらず言い続けているのは興味深かった。確かに猪木は世間の偏見と闘うためにモハメド・アリをリングに引っ張り上げて多額の借金を背負ったりしてきたが、それでも温泉に行くと老婆に「あら、ジャイアント馬場さん!」と間違えられたりしていた。つまり、猪木にとって世間とは「プロレス=ジャイアント馬場だと思っている世の中」のこと
ヤマトと杏さん 女優として活躍しながら、近年はお料理動画や弾き語りなどプライベートの発信をするYouTubeチャンネルでも話題の杏さん。そんなYouTube動画にも度々登場していた柴犬の愛犬・ヤマトが2022年3月末、天国へ旅立った。 「食いしん坊」ヤマトの異変に気付いたあの日から、一緒に過ごした最後の夜のこと、そしてかけがえのない大切な家族への痛切な想いを、杏さん自身が以下のように綴った。 * * * 2月半ば、家族で葉山に遊びに行った。知人の家で味噌を作ったり、畑で野菜を採らせてもらったりして、最後に皆で海を見た。「楽しいことしかしなかった」と子供たちはその日を振り返り、帰りの車、運転する私以外はコテンと寝た。中でも子供たちの足元にいた彼はやけに静かだったが、きっと久しぶりの遠出で疲れたんだろうと思っていた。 ヤマト、オスの柴犬。10歳。ペットショップで大きくなり過ぎた体を持て余してデ
時事問題について、原稿を書いたり、ラジオで話したりしていると、「〇〇の点について、引き続き考えていきたい」と締めくくりたくなる。なぜって、引き続き考えなければいけない問題だから。でも、いつの頃からか、「引き続き考えていきたい」という表明が、「うわ、この人、結論出せないんだ」と受け止められるようになった。 「〇〇の理由は△△だ!!」と単純に言い切るコンテンツが溢れ、多くの人は、問題となっている「〇〇」より、その理由としてあげられている「△△」より、その人が「!!」というテンションで断言している状態に興奮している。教養とは「〇〇」と「△△」について反復しながら考える行為だと思っているが、「!!」の勢い、それを欲する観客の数によって、教養が計測されるようになってしまった。 私は頻繁にBOOK・OFFに行くのだが、店の性質上、数年前のベストセラーが並んでいる。本書で取り上げられている堀江貴文、ひろ
1位『20代で得た知見』F[著](KADOKAWA) 人生は忘れがたい断片にいくつ出会い、心動かされたかで決まる(KADOKAWAウェブサイトより) 2位『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』鈴木エイト[著](小学館) 安倍元首相と教団、本当の関係。メディアが統一教会と政治家の関係をタブーとするなか、教団と政治家の圧力に屈せずただひとり、問題を追及しつづけてきたジャーナリストがすべてを記録した衝撃レポート、緊急刊行!(小学館ウェブサイトより) 3位『にゃんこ四字熟語辞典』西川清史[著](飛鳥新社) かまいたち山内さんも絶賛!!にゃんこを見てほっこりするうちに賢くなれる写真集!世界中から集めた激カワにゃんこ写真に四字熟語でツッコミを入れてみました!(飛鳥新社ウェブサイトより) 4位『禁断の中国史』百田尚樹[著](飛鳥新社) 5位『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』多良美智子[著](
作品紹介 他人の気持ちが分からないことが悩みの大学一年生・谷原豊は、曾祖母の葬儀(100歳没)をきっかけに、謎の霊媒師・鵜沼ハルと出会った。霊を信じない理系大学生の、奇妙な慰霊アルバイトが始まる――。 最新話を読む 第1話を読む ■4-9 考えてみれば途方もないことだ 2024/01/31 更新 ■4-8 時々変なことを思いつくようになった 2024/01/24 更新 ■4-7 他人とちゃんと話すのは大事 2024/01/17 更新 ■4-6 よく考えると同一性は問題ではない 2024/01/10 更新 ■4-5 結局のところ、生者の目線に立った認識 2023/12/27 更新 1234...10
「レディコミの女王」井出智香恵さん ある日突然、憧れのハリウッドスターがSNSを通じ連絡をしてきて、甘いやり取りを重ねるうちに心が通じ合い、ついにプロポーズされて秘密の恋が成就する……。夢のようなおとぎ話だが、実際は地獄への入り口だった。 映画『アベンジャーズ』シリーズでハルクを演じたマーク・ラファロになりすました詐欺師に騙され、7500万円もの大金を失い多額の借金を背負った女性漫画家の井出智香恵さんが、著書『毒の恋 7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」』でその全貌を明かした。 80年代に全盛期を迎えたレディースコミックの「女王」とも言われた井出さんは、多い時で1億円以上の年収があったという。 その彼女が70歳を迎えて、なぜ自身の財産をすべて捧げたのか。マークは彼女よりも約20歳も年下(事件当時50代前半)で言うまでもなく日本にはいない。妻子もいる。 常識的に考えれば、信じる要
人気お笑いコンビ・Aマッソの加納愛子さんが綴る、生まれ育った大阪での日々。何にでもなれる気がした無敵の「あの頃」を描くエッセイの、今回のテーマは「友だち」です。 *** ほんの何年か前、意味や意義だけに囲まれたいというキショい思想をこねくり回して淀んでいた時、風穴を開けるかのように、突然ぽんっと友だちができた。硬そうな生地の、ひらひらしていないミニスカートを穿いていた。 前の日まではそうじゃなかったのに、今日からは友だち。友だちは仲良し。仲良しは共有。行動、思考もろともね。共有っていうのは容赦がない。昨日までの他人と己をシェアしていく。友情には己の軽量化が必要だ。いや、そんなわけはない。なぁなぁ友だち~、これについてはどう思う~? え~知らな~い! そんな会話だって自由自在だ。 初めて会ったのは、ネタ番組のオーディション会場にあるトイレの洗面台だった。無防備な場所でふいに目が合い、向こうか
島田紳助の芸能界引退は何が理由だったのか。 経緯を辿ると――吉本興業が、紳助と暴力団幹部との親交を示す携帯メールを入手し、同社としては放置できないので、紳助を呼び出して事情を聞いた。紳助はメールが事実だと認め、自らの引退を言い出し、結局、吉本興業は紳助の引退を受け入れた――という流れになる。つまり紳助は暴力団幹部と交際を断つか、それとも吉本興業を辞めるかという選択を迫られ、結局、暴力団幹部との交際を選んだ、とこの騒動を解釈できよう。 ここで疑問が起きる。高視聴率を誇る人気タレントに芸能界を捨てさせるほど、暴力団は魅力があるのか、と。 次のようなことが、仮説として考えられる。今回の引退は魅力ゆえではなく、暴力団への恐怖からだった、と。十数年前、紳助は右翼から街宣車動員の集中攻撃を受けた。それを収めてくれたのが件の暴力団幹部だった。大恩がある。足を向けて寝られない。その幹部と絶交すると言い出せ
森高千里、KREVA、藤井隆といった名だたる人気アーティストとの楽曲コラボで話題となり、現在は執筆等、音楽以外の領域でも幅広く活躍する平成生まれの音楽プロデューサー/DJ、tofubeats(トーフビーツ)。今年5月には4年ぶりのアルバム『REFLECTION』と『トーフビーツの難聴日記』を同日発売。『トーフビーツの難聴日記』は地元・神戸から離れる決断、コロナ禍での活動、そして結婚など、本心が垣間見える内容となっている。本作の刊行が今後の活動にどう影響してくるのだろうか? tofubeats自身が現在の心境を明かしたエッセイを紹介する。 ※本記事は文芸誌「新潮」(2022年8月号)に寄稿したエッセイです。 *** 5月下旬、「新潮」副編集長の松村氏より弊社の問い合わせフォームからメールが入っていた。文芸誌から原稿の依頼を受けたことは過去になく、新潮社さんとお仕事をさせていただくのは休刊にな
芥川龍之介賞、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞をすべて受賞した「三冠小説家」である笙野頼子が「文壇」からパージされつつある。 去る5月、笙野は『発禁小説集』を上梓した。版元は、長野の小さな出版社・鳥影社。収録作の初出は大半が講談社の文芸誌『群像』だったが、同社に刊行できないと拒否されたのである。それで「発禁」。作中にある「ご主張」が不可の理由として告げられた。 どんな主張か。性自認至上主義に社会が侵食されることへの批判と恐怖である。性別が自己申告で通れば脅かされるのは生物学的女性だと笙野は警告する。「女が消される」「女消運動」とまで強い表現も用いる。それは性自認にちょっとでも懸念や疑問を挟むと、「ターフ!」(TERF=トランス排除的ラディカルフェミニスト)と差別者認定され吊し上げられる風潮への抵抗である。この原稿を書いたことで私も差別者と呼ばれるであろう。 片やトランス擁護者は「TRA(トラン
何百億円もする豪華なヨットや数兆円の個人資産を有するオリガルヒ(ロシアの新興財閥)の存在が、ウクライナ戦争を契機にして注目を集める。西側社会はその資産の没収を制裁措置に加えているが、そもそもなんでロシアにはこの種のスーパーリッチが多く生まれるのだろうか。その理由は所得の高低に関係なく所得税が均しく13%だからだ。 歪んだ税制が、ロシアの深刻な経済格差を生み出している根源だ、とピケティは本書で教えてくれる。そして税制や経済対策が公平さを保たないと、ロシアだけでなく、同じ権威主義国家の中国でも、あるいはハイパー資本主義と化した米国や欧州でも社会は不安定化し、国民は不幸になる、と断言している。 本書は、フランスの新聞『ル・モンド』に連載された論説から精選された時論の書である。日本でもベストセラーになった『21世紀の資本』以降のピケティの発言を知る上では最適だ。特にロシアや中国のようなポスト共産主
音楽家の坂本龍一(70)が現在、ステージ4のガンとの闘病中であることは、前回の記事でお伝えした通り。これは文芸誌『新潮』7月号で開始した連載「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」で本人が明かしたものである。最近よく頭に浮かぶ言葉がタイトルの由来だというこの手記には、病状の深刻さとは裏腹に、どこかユーモラスで達観したようなテイストが漂っている。また、ファンにとっては興味深い音楽に関連するエピソードも多い。 今回は、この中から、音楽にまつわる記述を一部、抜粋してご紹介してみよう。 気が狂いそうになった音楽、涙した音楽 2021年1月、坂本は直腸ガンの最初の手術を受けた。その直後から悩まされたのが「せん妄」だ。もっとも酷かったのは、手術の翌日で、なぜか韓国の病院にいると思い込んでしまっていたという。他にも様々なせん妄に悩まされたというが、音楽と関係したこんなせん妄も。 「財津一郎の歌う『♪みんな
2023年3月28日に逝去した音楽家の坂本龍一(享年71)が、直腸ガンおよび転移巣の手術を受けたことを発表したのは、2021年1月のことだった。 2014年に患った中咽頭ガンはその時点で寛解していたが、2020年に新たにガンが発見されたのだという。もっとも当時のコメントには「すばらしい先生方との出会いもあり、無事手術を終えて現在は治療に励んでいます」とあり、さらに「治療を受けながら出来る範囲で仕事を続けていくつもりです」と仕事への前向きな姿勢を示していた。多くのファンは心配しつつも、安堵したことだろう。 しかし、実際の病状は、こうした前向きなコメントからは想像できないほど深刻なものだったようだ。診察した医師の口からは「余命半年」といった衝撃的な言葉まで飛び出していたのである。 文芸誌『新潮』2022年7月号から2023年2月号まで掲載された坂本の連載「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」には
『文學界 5月号』(文藝春秋) 文學界新人賞受賞作の年森瑛「N/A」(文學界5月号)が話題だ。 6名の選考委員(金原ひとみ・長嶋有・村田沙耶香・中村文則・青山七恵・東浩紀)が全員一致で推したという触れ込みは、出来の悪いキャッチコピーみたいだが、近年の同賞が低調で苦り切った選評が並ぶのが常態化していたことを踏まえると、本当にちょっとした文芸的事件なのだ。 主人公は高校生のまどか。彼女は生理を止めるために拒食し、教育実習生としてやってきた同性愛者の美人と付き合っている。生理を止めるのは、女性性への抵抗や嫌悪ではなく、単純に「股から血が出るのが嫌」だからだ。同性愛者と付き合っているがLGBTQではない。まどかはただ自分でありたいだけなのに、一面からカテゴライズを押し付け、気遣いのふりで規格化した「正しい」言葉を垂れ流す他人や社会の想像力の欠如に苛立っているのだ。 巧いのは、まどかの苛立ちが、現代
安田峰俊・評「大陸最深部で繰り広げられる悲劇の実態をつかむ」 中国政府による弾圧が続く新疆ウイグル自治区を描いた書籍が話題となっている。日本語訳が発売一週間で重版となるヒットを記録している『AI監獄ウイグル』(ジェフリー・ケイン著/濱野大道訳)は、“デジタルの牢獄”と化した新疆の実態を、アメリカ人ジャーナリストの著者が膨大な取材に基づき告発した一冊だ。ルポライターの安田峰俊氏は、中国の実情を取材する難しさをふまえて中国の情報統制の実態を論じる。 *** 2021年末、私は中国の駐大阪総領事の動向を50日近くにわたり追いかけた。この人物はツイッター上で人権団体アムネスティを「害虫」と呼んではばからないなど、過激な言動で知られる。もちろん、彼いわくウイグル問題は「アメリカなどによる卑劣なでっち上げ」だ。私は総領事館内で本人にインタビューした後、あたかも親中派の記者のように振る舞って、彼と館員た
譚ろ美・評「「国恥地図」を知れば、中国人の頭の中が分かる」 中国がここ数年、地図に強いこだわりを見せているのをご存じだろうか。2017年には中国国内にある世界地図を調査して、「認めていない国境線が描かれている」などとして、3万点あまりを一斉に廃棄した。これ以後、外国人でもビジネスや観光で中国へ行った際、町の書店で買った古地図や地図帳を国外へ持ち出そうとすると、税関で厳しい審査を受けることになった。もし税関が「違法な地図」だと判断すれば、没収されるだけでなく、罰金や禁固刑になる恐れもあるという。 表記にうるさい一方、中国には「立ち返るべき本当の領土」を描いた特殊な地図がある。学校教育で使われてきたその地図こそが中国の強硬姿勢、領土的野心の起源なのだ。この10月『中国「国恥地図」の謎を解く』を上梓した作家の譚ろ美さんが実物を入手、開いてみるとそこには驚きの「国境線」が引かれていた。 * * *
帯も含めて一切そうは書かれていないんだが、これはEXIT兼近大樹の自伝的小説。チャラい売れっ子若手芸人・entranceの石山大樹が「充実を極めてはいるが、喜びと苦しさの反復横跳びを繰り返し、感情が息切れしている」頃、週刊誌に直撃されるところから物語は始まる。 要は、兼近がデビュー前に売春防止法違反で逮捕されたり、窃盗事件に関与したりした過去を、小説という形で振り返っているわけなのだ。 洒落にならない貧困と暴力。そんな家庭環境で培った常識は集団生活との相性が悪くて、気がつくと学校でも浮き上がり、数少ない理解者はいわゆる不良だけ。「お前にピッタリな仕事」として、中学卒業後に無申請のデートクラブ(未成年も所属)の送迎の仕事を紹介されるのも、そのせいで逮捕されるのも自然な流れだった。そして、そこで出会った男に「外出たら一緒にBARやらないか」と誘われ、ハメられて窃盗事件に巻き込まれるのも自然な流
ピーター・バラカン×北中正和・対談「なぜビートルズだけが別格なのか?」 1970年のグループ解散から数えて、すでに半世紀。にもかかわらず、いまなおカリスマ性を失わず、時代、世代を越えて支持され続けるビートルズ。いったん頂点に上り詰めても、たちまち忘れ去られるのが流行音楽の常なのに、なぜ彼らだけは例外なのか――。 世界各地のポピュラー・ミュージックに精通する音楽評論の第一人者が、彼ら自身と楽曲群の地理的、歴史的ルーツを探りながら、その秘密に迫った『ビートルズ』が9月に刊行。 著者である北中正和氏と1960年代をロンドンで過ごしたピーター・バラカン氏が、彼らの魅力をさまざまな角度からひも解いていく。 *** バラカン(以下、バ) まず北中さんがビートルズに関する本を書くとは夢にも思っていなかったので、正直びっくりしました。 北中(以下、北) 友だち全員からそう言われてるんです(笑)。 バ 僕も
お笑い芸人・アンガールズの田中卓志による、ちょっと哀しいのにクスリと笑える日常とは? 文芸誌「小説新潮」の連載で明かされた可笑しみと悲哀がにじむエピソードを公開します。今回のテーマは「ブレイクはしたものの」です。 *** 最近、テレビタレントの人が心労で休業するニュースを時々見る。そういうニュースを見ると、自分が若手芸人の頃に経験した出来事を思い出す。 今から15年くらい前の話。僕がお笑いを始めてから、4年目のことだ。 当時、「爆笑問題のバク天!」というテレビ番組があって、その中に、売れていないお笑い芸人が出る新コーナーが出来るというので、僕たちはオーディションを受けることになった。 そのコーナーの意図が、「エンタの神様」に出られない、とにかく変な芸人が出るというものだったので、僕たちはショートコントのジャンガジャンガのネタを持っていった。 恥ずかしいけれど、ジャンガジャンガのネタを一応説
お笑い芸人・アンガールズの田中卓志による、ちょっと哀しいのにクスリと笑える日常とは? 文芸誌「小説新潮」の連載で明かされた可笑しみと悲哀がにじむエピソードを公開します。今回のテーマは「最高の食事」です。 *** 食事というものは、毎日のことで何気なく過ぎて行く。けれど、毎日の積み重ねだからこそ、色んな想いが詰まっていて、時にその感情が意外な形で僕の前に飛び出してくることがある。 僕は一人暮らし歴がもう26年になり、年齢が45歳なので、一人で暮らしてきた時間のほうが長い。 ここまで来ると、一人でご飯を食べるということに全く寂しさを感じない。 よく芸人同士、仕事が終わると今日の収録の話や、他愛もない話をするために、みんなでご飯に行くことがあるけれど、それが大好きな芸人もいれば、正直それがなくてもいい芸人がいる。僕はどちらかといえば後者に近いと思う。 さっと家に帰ったら帰ったで、一人で好きなテレ
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『書評まとめ読み!本の総合情報サイト | Book Bang -ブックバン-』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く