記事:明石書店 『近代日本の優生学――〈他者〉像の成立をめぐって』(明石書店) 書籍情報はこちら 長谷川如是閑の例から 長谷川如是閑をご存じでしょうか。戦前日本の卓越したジャーナリストで、リベラルな思想の持主として政府や軍部にも物おじせず意見を述べたため、権力にとって危険な人物としてマークされていました。 その彼が、「障害者や犯罪者などは遺伝的要因によるもので、次世代にその遺伝的要因を伝え、同類が増加しないよう、妊娠を防ぐ手術を行ったほうがよい」という考えに触れたとき、どのように応じたと思いますか。 推測はいろいろと可能でしょうが、一つは、そうした人々は普通の人のように社会生活を営むことが難しく、世間から疎まれることも多いから、生まれないよう予め処置するほうがよいとした、ということでしょう。 いま一つは、権力批判も辞さないリベラリストなのだから、それらの人々を一方的に手術の対象に据えること