兄が痴漢をして最初に捕まったのは、女子高に入学したばかりの頃。こんなことを周囲に知られたら、もう学校には通えなくなる――。 取材応募メッセージには、誰にも相談できず一人でつらさを抱え込んだ、10代の頃の女性の思いが記されていました。 コロナの感染拡大状況をにらみつつタイミングをはかり、ようやく彼女と会えたのは8月下旬。客がまばらなカフェで、ガラス壁の向こうに広がる緑を眺めていると、レジ脇の通路から、明るく気のまわりそうな女性が姿を現しました。 元気そうな見た目と、メッセージでもらった壮絶な内容が結びつかないのは、この連載の取材ではよくあることなのですが、このときも近づいてきた彼女に話しかけられるまで、「本当にこの人かな?」と思っていたのが正直なところです。 水谷由芽さん(仮名)、30歳。2年前に鬱病を患った彼女は、兄が起こした犯罪そのものより、彼女が抱えた苦悩に気付かず、むしろひとりで抱え