「原稿から顔を上げて最初に頭をよぎったのは『これはすでに発表されている作品を持ち込んできたのではないか』という疑念でした。それほど、完成度が高すぎたのです」 当時29歳の編集者が驚いた、心を揺さぶる小説の持ち込み原稿。「これはすでに発表されている作品を持ち込んできたのではないか」と疑ってしまうほどの小説を送ってきた人物とは……? 講談社の人気小説を数多く手掛けた編集者の唐木厚氏による初の著書『小説編集者の仕事とはなにか?』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む) ◆◆◆ 編集者人生を変える、運命の電話 忘れもしない1994年、僕が29歳のゴールデンウィークのことです。連休の狭間の平日、社内にもさほど人がいない中、暦どおりに出社していると、編集部に電話がかかってきました。 相手の問いは「いまでも出版界には持ち込みという制度は残っているんでしょうか?」というもの。Y