おれたちは小説で人生を救われたことがなかった、だけど小説を書き、どうしようもなく書き続けてしまい、小説がなくても生きていけたおれたちが小説を書くことで、いったい小説のなにを知り、触れることができるというのか。 本そのものは不変であって、いっぽう、ひとびとの意見はそれに対する絶望の表現にすぎないって、ねえ、靴子ちゃん、わかるかな、わたしたちが言っていることはどれもこれも絶望の表現でしかないんだよ、わたしたちがなにを言ったとしても、この話のなかでおこったことはなにも変わらないんだよ、この話のなかで彼は死につづけていて、彼女だって死に続けているんだ、そしてこの話をしたわたしはかれと彼女とはべつに生きつづけていて、この話を聞いた靴子ちゃんもまた生きつづけているんだよ ──桜井晴也「愛について僕たちが知らないすべてのこと」 もうじき9ヶ月になるしたの子はじぶんではできないあらゆることをだれかに求める
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